#234:傍若無人な(あるいは、ちはやぶれ!斉唱納言)

 激しいどよめきの中、場はいきなり暗転する。


 この段取りも僕が頼んでおいた事だ。ダイバルちゃんこと春中さん以下、僕たちに賛同してくれた数々の人たちの助けを受けて、今、僕はこの首謀者を追いつめつつある。


「……ただいま準備中……その間っ!! この歌姫の絶唱を聞いてくれっ」


 暗闇の中、ダイバルちゃんの声と共に、三塁側のスタンド中央付近から、青白いレーザービームが幾束も弾け飛んで来た。その光源からゆらりと姿を現したのは、件のプラチナムディーヴァ、葉風院ミコトに他ならない。妖しげな笑みで、ばちりとウインクをかまし、スタンドマイクを両手の指先だけで軽やかに携えている。


 白金色の光沢を発するその鱗状のドレスは先ほどのままだったが、今はそれに天使の羽みたいな鳥類系の翼を四枚ほど、ランドセルのように背負っている。何だろう、あれ。


「……わぁぁぁぁぁぁいは、ダメやぁぁぁぁぁぁぁっ!! ヒト以下のだぁめぇでぇしぃかぁぁぁぁぁあっ、ないんやぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」


 ビリビリと球場の空気を震撼させながら、超絶高音が、がああと響き渡ってくる。おおう、相変わらずのド迫力。でも選曲はよりにもよって例の「国歌」かよ。脱力感が群れをなして襲ってくるその歌詞から耳を背け、僕はアオナギ、丸男らと共に、「準備」を進めていく。


「……整いましたぁっ!!」


 国家の二番がちょうど終わろうかという頃、ようやく「対局」のスタンバイが終わった。よしよし、三番までは流石に聞いてられないからね。僕の合図に、おそらく裏で待機してくれているのだろう、実況少女の誰かが、再びスポットライトをリング上に集めてくれる。


「……うん? ……な、何じゃこりゃあああああああっ!!」


 そこには、強烈な光と熱を当てられて目覚めた、ミズマイの四肢を広げた姿があった。その体の至る所を、決勝二回戦目かで使われた、金属パイプのフレームが直方体を形作っている専用搭乗型決戦装置、「スクエニック=ハーフナーパイプ」に、革ベルトで固定されているわけだけど、お前は驚き方もテンプレ感満載だな。


「さあ!! 真の決勝……決着の始まりだ!! 大将同士の一騎討ち!! 見どころ見逃すなよぉぉぉぉっ!!」


 ダイバルちゃんも、さりげなくこちらに顔を向けウインクをしながら、そう声を張り上げる。分かってます。やってやりますよって。


「貴様らあああああっ!! 何をしているっ!? このワタシに向かってぇぇっ!! 早く降ろさんかぁっ!! ルイ、ミロっ!! これは命令だっ!! 早くしろぁぁぁっ!!」


 もはや余裕かましていたミズマイの、外ヅラの名残は伺えない。ただの余裕ない、沸点低い、器小さい、哀しいおっさんがテンプレ気味に怒鳴っているだけだ。もちろん、その言葉に耳を貸す者など、ここにはいないわけだけど。


 やれやれ。ではせめて散りザマは奇抜にしてあげないとね。僕は軽く勢いをつけて、ミズマイの拘束されているリング上へと飛び乗る。

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