#231:百鬼夜行な(あるいは、メシアだれ?)

 懐かしさすら感じさせるリング上だ。水色のキャンバス、臙脂色のロープ。


 昨日の予選の時は何組もの対局が組まれていたので、各々が干渉しないようにアクリル板のブースで囲われていたわけだけど、今や決勝トーナメントの決勝戦。もう対局者は僕らだけ。だからその囲いは取っ払われているんだけど、そのせいか、観客の皆さんの歓声やら怒声やらがもろに体にぶつかってくるかのようだ。


 リングの設置場所は、二塁の位置を頂点に合わせた、グラウンドのほぼ中央。僕ら対局者の姿は、バックスクリーンの大画面にも映し出されている。


「……」


 ミズマイはコーナーポストに寄っかかりながら、不遜な笑みを浮かべてこちらを見てくる。


 その脇には素立ち状態のミロちゃんと、先ほど「ルイ」と呼ばれていた妙齢の美女が物憂げに佇んでいた。相変らず、その二人の表情は乏しい。


 そんな中、僕は一人、対戦相手の三人と対峙している。そう、僕一人で。


「おやおやぁ~? あとの二人はどうしたのかね? ビビッて逃げ出したとか、そういうのは何というか興ざめだよぉ~」


 ミズマイ……思考もテンプレだよ。僕はそれには答えずに、突如右手を高々と天を突くように伸ばすと、指を鳴らした。うん、このくらいのキメがあってもいいはず!!


「!!」


 次の瞬間、重低音の音楽が鳴り響いた。と同時に、一塁側のダッグアウトから、奇声を発しながら飛び出てくる二つの影。まあ言わずとも分かるか、僕のチームメイトふたりだ。


「イイイイイイイヤッハァァァァァァっ!!!」


 いい感じにキマったかのようなテンションで、グラウンドを滑るように……いや実際滑っとる。前戦で使った「ロケティック=ローラーヒーロー」なる、超速電動ローラースケートを履いてのお二方のご登場のわけで。


「おらおらぁ、俗物は消毒だぁぁぁぁぁっ!!」


 どこからか持ち出してきたのか、消火器を胸に抱き、宙に向かって小刻みに粉を噴出させるという、極めて謎なパフォーマンスをかましながら登場したのは、アオナギ。ちょっとわけわかんないけど、観客も何かキマっているのか、ごおおぅ、というような大音声が響き渡ってくる。


「……」


 一方の丸男はと言うと、想定外の黙祷・合掌の沈黙モードのまま、するすると滑り出て来たわけだけど、その恰好は、多分、会場の誰もの想定外だったと思う。


「……」


 いつぞや使われていた「阿修羅像くん」だった。いや、阿修羅像くんを分解して、そのパーツを体に無理やり纏わせている一人の巨体の男だった。


 六本の腕を背中から生やしているのはまだしも、胴体のパーツはぞんざいにその腹のところに括り付けられてるだけで、さらに頭部パーツは、その丸い頭の上に縄で縛りつけられている。恐えよ。歓声や怒声を一律どよめきに変えながらも、その丸男と阿修羅のハイブリッド体は、疾駆を続ける。


「……淋・病・当・社・怪・人・let’s・財前……」


 よく耳を澄ませてみると、まるきり合ってないと思われる九字のようなものを唱えているけど、阿修羅とは関係ないんじゃ……


 とにもかくにも役者は揃った。要らん要素を盛りに盛って。いや、要らなくはないか。


 戦闘準備完了、と僕はやや自分に言い聞かせるかのように、心の内でそうつぶやく。

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