#225:内剛外柔な(あるいは、背すじをピキュンと)
「ムロっちゃあああああん!! 何とかしぃてぇぇぇぇぇぇぇぇええええっ!!」
僕の背後からとち狂ったかのような丸男の裏声悲鳴が聞こえてくるけど、もうこれ以上は正攻法も裏技も出そうな気配がしない。
四周目のバックストレート。その直前のカーブでまたしても、アヤさんコニーさんに差を詰められ、既に隣に並ばれているという状況だ。このままだと次のコーナーであっさり抜かれる。そして抜かれたが最後、今度こそ、そのままぶっちぎられるだろう。
「……」
それを防ぐには? DEPを食らわす? いやダメだ。もう僕のダメは枯れている。もはや初期のような力は残っていないんだ。先ほどのように、あっさりと返り討ちに会うことは必定。そしてその瞬間、この絶妙のバランスを持って成り立っている仏壇返しフォーメーションは瓦解し、そのままコースアウトして終わりだろう。
僕は自分にダメの無いことが、これほどまでに無念と思ったことは無かった。まあ普通逆だよね。何というかもう……わやくちゃな気分だ。でもここで諦めることは出来ない。ダメ人間として既に終わってしまった僕に出来る最後のこと……それは何だ?
「激しいデッドヒートぉっ!! 四人が一線上に並んでの真っ向鍔迫り合い!! 抜け出すのは果たしてどっち……なんだか、はっきりしなさいって言ってるでしょぉっ!!」
サエさん実況も白熱さを帯び、僕らは勝負の第三コーナーに突入していく。僕には何も妙案は……無いまま。
「み・さ・き・くぅん」
そんな中、徐々に煮詰まり始める僕の脳を涼風が如く、天使のラブボイスが吹き抜けていく。
「……岬くん、岬くぅん」
甘やかに囁くように、狂おしく、僕の思考を埋め尽くす。前屈の妙な姿勢から、右隣に並んだ人影を見上げると、そこにはコニーさんとの「合体」を解いたアヤさんが、相変わらずの神々しいウェディング姿で僕の方を向いていた。
あ、あれ? 呆気に取られたままの僕の体を優しく、しかし有無を言わさずに立ち姿勢まで起き上がらせると、そのまま僕の左手を取り、僕の背中にその華奢な左手を回してきた。ええ?
「……アナタはこっち」
一方の丸男も、コニーさんに手を取られ、ぽかりと口を開けたまま、僕から離れていく。
何がぁっ、何が起ころうとしているのだぁぁぁぁっ。完全困惑状態で、うわあと叫びだしたくなっている僕を完璧にエスコートする形で、アヤさんは優雅なワルツを、このアクリル足場のコース上で舞い始めるのであった。
想定外。想定外過ぎて、もう僕は夢の中に片脚を突っ込んでいるかのような、そんな浮遊感の只中に放り込まれているわけで。
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