#224:当意即妙な(あるいは、く+く=エックス)
場はすでに、キャノンボール的な様相を呈してきていた。高尚な表現を用いると、うしろやぐら(あるいは、仏壇返し)スタイルで、おそらくは時速60キロメートル近いスピードで、コースを疾走する僕と丸男。三周目の半分を越え、トップを行くアヤさんをもぶっちぎりで抜き去った。
これは……いける!! 「運転」のコツもほぼほぼ掴み、このままコーナーワークだけを愚直に正確にこなしていけば、大差で僕らの勝利となるっ。とそう僕が迂闊にも考えてしまった、その時だった。
「コぉぉぉぉぉぉ、ニぃぃぃぃぃぃっ!!」
あくまで可愛らしく、しかし思いもかけず力強い響きを持って、アヤさんがコニーさんを呼ぶ声が背後から聞こえてきた。そうだった。ことこの溜王戦において、勝利を確信するのは、実際に決着がついてからでも決して遅くは無いということ、その大事なことを僕は忘れていたわけで。
僕らにこの「合体技」が出来るという事は、それすなわち、相手にも可能だということだよね……既に半周差をつけていた僕らだったが、ちょうど左手の方向、後ろを滑走していたアヤさんとコニーさんの二人の距離がお互いに引き寄せられるかのように接近するのを、超高速で流れる景色と共に何とか視認した。まずい、向こうも「合体」する気だっ!!
「アヤぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
叫ぶコニーさんと、向かい合わせになるように、背中と背中を預け合うアヤさん。二人は背中越しに両腕を絡ませ合い、「く」の字と「く」の字に曲げた体が、お尻とお尻でくっつきあっている。そう、まるで「X」の文字を形作るかのように。
<……『フォーメーション=X』発動。横列合体により、最高速度が『60キロメートル』まで引き上げられます>
そして合成音声により告げられたその速度は僕らと同じ。でも同じならば、この半周の差は、決して縮まらないはずっ、とまたしても僕が考えたことは迂闊に過ぎなかったわけで。
「yyyyyyyyyyeahっはあぁぁぁぁっ!!!」
完全にフィーバー状態に入ったかのように思われるコニーさんの嬌声が響く。カーブの入口、ひとりがもうひとりを背中に乗せ、跳躍すると共に体ごと反転させ、もうひとりの方が着地すると共に、ノーブレーキでカーブの出口のかなり前から加速を開始する。この、超絶テクニックのコーナーワーク、まったく速度が落ちてない!!
かたや僕がイン側の拳でブレーキを掛けることで何とか曲がれている我がチームはある程度の減速は免れないっ……!! その差は歴然っ……四週目の四分の一まで到達した僕らだったが、後ろに迫る気配を既に感じていた。どうするっ!! このままじゃジリ貧。何か、何か策は無いのっ!!
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