#217:随機応変な(あるいは、ノーザンゴッリーラ・テイキングオフ)

「Noooooooooooooooooorthっ!!」


 錯乱の余り、わけのわからない叫びが喉奥から勝手に絞り出ている。体感速度おそらく80キロほどの衝撃が、微妙な体勢の僕を襲っているわけで。


「うおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」


 そして眼前に迫りくる、緩やかながら、途中隙間ががっつり空いている気の抜けないカーブ。これ、曲がり切れなかったら、あっけなくコースアウトで終わりだ。そんな、そんな情けない終わり方だけはしたくない……っ!!


「……」


 瞬間、肚を決めた僕は、スケートを履いた両足を、思いっきり右方向へと、投げ出すようにして突っ張る。両手は足場に拳を握った状態で付けたまま。そんな腕立て(拳立て?)のようなまたしても微妙な姿勢で、カーブへと飛び込んでいく。


「ぐうううううううっ!!」


 漏れ出るうめき声、全身にかかるアウトコースへのG。高速で迫ってきたコースの継ぎ目(最内だけが点で接した、三角形の空隙)を、両拳、両脚に力を入れて何とか飛び越える。


 すさまじい摩擦と加速に翻弄されながらも、僕は自分の身体をどうにか制御して、足場の上にとどまらせることに成功していたようだ。そのままの姿勢で、次のカーブも何とか乗り越える。


「ああーっとぉ!! ムロト選手すさまじい飛び出しっ!! 何と、後続に半周分くらいの!! 差をいきなりつけたんだからねっ!!」


 サエさんの実況に、ようやく我に返る僕。辺りを見渡すと、僕の周りには誰もいなかったわけで。遠くからではよくは判別できないものの、慌てて滑り始める他の面々の姿が見える。これは……好機では!?


「おおおおおおおおおおおおっ!!」


 突如僕に舞い降りた熱血に身をゆだねる。状況を把握し、素早く判断した僕は、スタート時に取っていたクラウチングスタート的な姿勢にあえてまた戻し、爪先を、今度は意図的に踏み込む。瞬間、体には強烈な加速がかかるものの、もう慣れた。


 降ってわいたこのアドバンテージ、生かさない手は無いっ!! 僕はアイススケートに興じるゴリラのように(前に動画で見たことある)、前傾で両拳を突いた姿勢で、再び加速を始める。


 <ムロト:着手可能時間:40秒>


 そして今気づいたけど、左手首辺りのバングルには細い液晶画面が付属していて、青緑の文字が、僕にDEPを撃てることを告げていた。順位は当然1位。ということは、何の制限も無く、DEPをぶちかませるってことだ。「初摩を討て」との作戦……成就するかもしれないっ!!


 僕は決意を込めつつ、油断もせずにコースを滑走していく。

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