#146:金銀な(あるいは、伏線回収隊、しゅつどう!)

「ぷふうううううううう」


 長らくのこのシリアシックな空気に耐え切れず巨体をぷるぷると震わせるだけだった丸男が、腐った息を大きくついた。係員たちの手によって僕らの拘束が解除されていく。


「こういうのは、もう勘弁だよなあ、俺の崇高な人間性がちらっちら垣間見えちまわぁ」


 首をぐるりと回しながらアオナギが装置から降りて来る。何というか、照れ隠しなんですかねえ。あんだけ熱く語ってたじゃないですか。


 この対局、僕は良かったと思いますよ。タメイドにとっても……何かを残せたと、そう思いたい。まあ「限DEP」云々がほぼほぼ生かされなかったことに目をつぶればね。


「……」


 と、壮絶な対局の舞台だった壇上から降りようとしたところ、僕は急に何故か引きつけられるかのような視線を感じ、観客席のある一点に目を向けた。何だ? 喧騒の中、そこだけが冷たい静寂が覆っているかのような、そんな不思議な一点……


「……」


 そこには、お互いの背に腕を回して寄り添いながら佇む、双子のように、いやそれ以上に不自然なほど似ている女の子が二人いた。


 肩にかかるくらいの髪……一人は金髪、もう一人は銀髪だ、瞳は大きく、これも金・銀に彩られている。ものすごい美形なんだけれど、何か作られたような感じの美しさ。そしてそれが色違いで隣り合っているので、相当な存在感を持っている。着ているのは迷彩柄のワンピースのような代物だ。それも強烈な違和感。迷彩の色も、金髪が白っぽいやつ、銀髪が緑っぽいのにそれぞれ身を包んでいる。人形のような、CGのような……


「『ミリ×タリ×シスターズ』。次のお相手よぉ」


 アオナギが僕の視線に気づいたのか、背後からそう説明を入れてくれた。ミリ×タリ……確か超初期からちょくちょく名前だけは挙がっていた記憶がある。その相手と遂に当たるわけか……でも何だろう、この違和感。金銀の相似迷彩少女の外観が、という意味の違和感もあるのだけど、その底に流れるいまひとつ説明できない妙な感覚が僕にはある。


「……」


 僕の視線を感じたのか、銀の方の少女がこちらに目をやってきた。つるりとした質感の肌。銀色の虹彩がやはり異彩を放っている。表情は無きに等しいものの、僕の姿を認めた時、その大きな瞳がほんのわずか歪んだように見えた。と、


「おつかれちゃん、おつかれちゃんよぉ〜。アオちゃんのあの上っ面だけを執拗に撫で回すかのような演説、いつもながら心に響くわぁん」


 その微妙で繊細なやり取りをかき消すかのように、ジョリーさん。壇上から降りた僕らをねぎらいに来てくれたようだ。促されつつ、自分らのテントに戻る。


 今回の差し入れは、キンキンに冷えたノンアルコールビールだった。非常に喉が渇く展開の対局だっただけに、これは有難い。350mlの半分くらいを一気に流し入れたわけで。


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