#141:仁義な(あるいは、脳髄見せろ、頭脳戦)

「第3ピリオド……開始する」


 重々しい空気を纏ったまま、対局は進行していく。ただならない雰囲気を感じ取ったのか、桜田さんの実況も心無しか重い。


「言いがかりをつけて相手にプレッシャーを与え、対局で優位に立とうとする姿勢は感心できませんねえ」


 タメイドは再び丁寧な口調に戻ると、ふふふ、とこちらを小馬鹿にするような表情で見返してきた。


「ほお、言葉絞って頑張るじゃねえか。確かに一般論としちゃあそうだろうし、嘘はねえんだろうな。さすが詭弁士。だがよお、そのはぐらかしをもって、俺はあの件がお前さんの差し金だっつうことを確信したぜ」


 アオナギもくっくと笑いながらそれに返す。おお、何というか二人の間に電撃で走っているかのような緊迫感……っ!! そしてアオナギは大きく息をつくと、次の瞬間、とんでもないことを切り出したわけで。


「タメイド新四段、最後はお前さんとサシで勝負がしてえ。残る4人のうち3人が指名権を得る訳だから、お前さんか俺のどちらかは必ず指名権を持つ。俺が持ったらお前さんを指名するから、お前さんにも俺を指名してきて欲しいわけよ」


「ど、どういう意味だ……」


「どうもこうもねえ。決着を……つけようってこった」


 アオナギは左拳をバーに叩きつけると、右手で髪を掻きあげつつ、その迫力ある歌舞伎顔をタメイドに向けると、そう迫った。ぐっ、とまた顔を歪めるタメイドだが、


「……属性に勝負を邪魔されたくねえ。俺は『こいつ』を出すからよお、お前さんも同じのを出してくれや」


 言いつつアオナギは「チョキ」のカードを掲げ、その相手の方へかざすように見せた。ええ?出し手を宣言しちゃっていいの? 嘘発見機が作動しないということは、アオナギはタメイドを指名すること、そしてチョキを出すことを決めている……っ!?


「く、ククク、下手な仕掛けですねぇ、アオナギ七段。『こいつを出す』? そのチョキを出すとは言ってないということですかね? つまり、『属性カード』を出すことは真実かもしれないが、何を出すとは言っていない、と。随分と幼稚なトリックだあ」


 しかしタメイドの言葉が終わるか終わらないかの間に、アオナギは「チョキ」のカードを表にしたまま、ボックスへと挿入してしまった。これにはタメイドも面食らったようだ。眉間に皺を寄せ、その真意を推し量っているかのように見える。


「見ての通りだ。ま、お前さんがグーを出そうが? 俺には止めようはないわけだが? 新進気鋭の新四段様が、みすみす相手からの恩情のようなハンデを受けるかどうかは、見ものっちゃあ見ものだよなあ」


 挑発……っ!! タメイドのプライドの高さを逆手に取ったこれは戦術なのか?


「いいだろうっ、大勢の観衆の前でのこの真剣勝負で……貴様との優劣を明らかにしてやるっ……!!」


 遂にその慇懃無礼の仮面が剥がれたかのようなタメイドの物言い。そして乱雑にカードの一枚を掴むと、アオナギの方に向けてから、ボックスへとそれを滑り込ませた。僕にも見えた。確かにチョキ。チョキ対チョキのガチンコ対決だ。


 そして僕はさりげなく丸男を見やる。アオナギが先ほど髪を掻き上げる仕草をしたが、あれはサインだ。バーの上に左拳を置いて、上半身のどこかを触る……「グーを出せ」という合図。タメイドが万が一僕らを指名してきた場合の保険なのかな? その真意は判らないけど、丸男もサインを出されたのは分かっていたようだ。軽く頷くと、カードをスロットに差し込んでいる。僕も「グー」を滑り込ませた。


 さあ、おそらくこれで決まる。タメイドと僕らの最終決着戦が、遂に始まる……っ!!


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