#108:飽和な(あるいは、緑色に光る)
そんな僕の逡巡を尻目に、緑のおかっぱを揺らしてのオーバーなアクションでセイナちゃんが対局の説明を始め出す。
「決勝トーナメントはぁー、元老院からの出場者も多いのでー、評点者は一般のお客様だけになりますっ」
おっとー、いきなりの公正さのアピール。それに逆に怪しさを感じなくもないけど、予選の時の総評点50,000点の内、元老院五人が1,000点ずつ、段位者30人が500点ずつの20,000点を占めていた。
これが全て一般客の投票による採点になるということは、その辺の不正がまず出来なくなると考えられる。いや、一般客に仕込み入れてたり、そもそも評点システムがでたらめなものだったりしたらどうもこうも無いけど。
「よって最高評点は『30,000点』っ!! 今回は評点の差による電気ショックは無いから安心してね!! でもー、スライドの角度に耐え切れずに滑り落ちてしまうとぉー、『砂糖水風呂』が待っているから気をつけるんだよっ!! 体が浮くほど飽和してるからぁー……」
ちょっと待って砂糖水って初めて聞いた。何故? そしてそんな濃いのに飛び込んだらどうなってしまうと!?
「……体がもんすごくベタベタになりますっ!!」
いや言い切ったけど、それだけかーい。正体不明の罰ゲームだが、電流よりはよっぽどましか。いやいや負ける想定をしていてどうする。相手チーム三人……元老院三人娘を、そこに送り込んでやるくらいの気合いを持たないと。
スライドの上、僕らがスタンバっている所は地上からの高さおよそ5mくらいだろうか。半径10mくらいの円周上に、僕ら対局者6名は上空、同じくらいの目の高さで対峙している。メゴ、リポ、カオの三人娘はスライドの上側に腰掛け、片手で縁を持って、まだ脚はしっかりと閉じたまま、営業用とはっきり分かる作りスマイルで、周りの声援に手を振って応えたりしている。余裕か。
一方、自チームのアオナギがぽけーっとしているのはまあいいとして、丸男の顔色が悪い。そう言えば予選決勝の逆バンジーで失神していたっけ(のちに失禁も確認)。まずいな、いい要素が無い。
僕の方はと言えば、大分喉の痛みは緩和してきたものの、今度は体が熱っぽさを訴えて来ている。風邪だね、完全に。あかん。こらあかん。どんよりとした気分に支配されそうな僕だったが、そこにバックネット側の方から声が掛かったわけで。
「ムロトぉー!!」
ひと言だけ、名前を呼ばれただけだが、もう僕にはその声の主は見なくてもわかっていた。そちらの方に向けて、勢い良く右手親指を突き立てて応えてみせる。そう、やると決めたんじゃないか!! 約束したじゃあないか!! サエさん……
「……」
バックネット前には腕を組み、仁王立ちでこちらを厳しく見つめるサエさんの姿がやはりあった。しかしその格好は思てたんと違く、深い紫色の革のボディースーツ(胸元のジッパーはみぞおちくらいまで開け放たれている)に同色のブーツ、グローブ。そして顔はこれまた革製とおぼしき、頭頂部で耳のような突起がぴんと立った、何というか……まあキャットウーマンだったわけで。
なぜ決勝になると実況少女たちはダメな方向へ一歩モデルチェンジをする? これがダメの祭典だからか? 僕は動揺を悟られまいと殊更ゆっくりと視線を元に戻すことしか出来ないわけで。
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