イエロードワーフ

ソイルドラゴン



 穴、そう……穴があればそこに逃げ込みたい、そしてこの場から逃げ出したかった――――


 だがそれは言葉のあやと言うもので、現実に穴に落ちたいとは思っていなかったのだが……


 二人に左右から引っ張られた。体が千切れそうになった瞬間、地面が変形し、大きな顔が現れたと思うと、口が開き俺達はその大きな口に飲み込まれた。



「「え??」」



 俺はまた、落ちた――――




「うわあぁぁああー」

「キャーー」



 全員が叫ぶ、そして真っ暗な中、俺は意識を失った。





「痛っつつ」



 どれだけの時間が経ったのだろう、次に気がついた時には周りに誰もいない状態だった。幸い大きな怪我はなく、落ちた時の衝撃のせいなのか、頭が若干痛むが、二日酔いに比べればかなりマシな方だ。


 地面に現れた口に飲み込まれたのだから、ここは地底深い場所のはずなのだが、どこから落ちたのか、天井は低く、洞窟内といった感じだった。

 辺りの壁が自発的に光を放ち、とても地底深くのカビ臭く薄暗い場所ではなかった。むしろ昼間のような明るさと、空気も清々しく、一言で言うならば、要塞。どこか建物の中にいるような感覚を覚えた。


 少し先に小さく強い光が漏れているのが見える、恐らく出口なのだろう、何かその出口を塞いでいるものの隙間から見える光だ。俺はその方向に向かい歩いた。

 その光に近づくにつれて、出口を塞いでいるのは俺の身長ほどある動く大きな尻尾、もしくは蛇のような長くうねうねしたものだった。



「うぇ、何だこれ」



 この詰まっている物を排除しなくては、この先の出口まで行けない。だがその尻尾はバタバタと左右に降られ、近づくことさえできない。

 仕方なく俺は背中の剣を抜き、尻尾の動きが止まった瞬間に突き刺した。




「キィャーーーン」



 甲高い叫び声と共に、返り血を浴びると思ったが、不思議なことに血も体液も一滴も出なかった。

 それどころか、尻尾は俺の剣が突き刺さったまま、微動だに動かなくなった。



「仕留めたか!」



 俺は剣を抜き、恐る恐るその付け根に向かい歩いた。

 出口を埋める大きなクッションのような弾力を押し退ける。



 後光が眩しく放たれるそこは、本当に地底なのかと思わせるほどだ。日本庭園のような庭と池が広がり、その先には顔を動かさなければ視界に入りきらないほどの平屋建ての神社か寺に似た建物があった。


 尻尾は出口と同じ位置で切れてあり、隣に巫女服を着た少女が倒れている。



「あ、あの……」



 二十代前半くらいだろうか、黒髪の似合う清楚な巫女さんという印象だった。


 呼び掛けた所で、返事はない――――



 手を伸ばし華奢な肩を少し揺らしたが、反応はない。

 もしや死んでいるのか、息をしているかの確認のために俺は彼女の顔に自分の耳を近づけた――――



 ――――わずかに当たる息。



 白い透き通るような肌、長いまつ毛に見とれていると、突然そのまつ毛が動き、大きな黒目と目があった。



「えっ!?」


「ひっ!」




「おいお前! 何をしている!!」



 張りのある男の声と共に多くの足音が聞こえる。後ろを振り返ると、多人数の丸坊主が長刀を構えながらこちらに走って来る。



「こっち!」


「え?」



 怯んでいると次は彼女が俺の手を引っ張った。俺はなされるがままに彼女と手を繋ぎ走った。


 袴姿では走りにくそうだ、一生懸命走る彼女を俺は追い抜きそうになる。



「アーちゃん、ミーちゃん、お願い!」



 ア、アーちゃん? ミーちゃん? 突然叫んだ彼女に戸惑った俺の出す足が遅くなる。ちょうどその時、下から盛り上がる地面に足が浮かび上がるよう押し上げられる。



「うわあぁあ!」


「キャィーー!」



 俺達の足下からはあの出口を塞いでいたのと同じ尻尾のようなものが勢いよく出てきたと思うと、まるで水の中を泳ぐイルカのように土をかき分けて進む。



「しっかり掴まってて、勇者殿」


「ゆ勇、って、何で?」



 後ろからは大量の叫び声が聞こえる。

 振り返ると、もう一匹の同じ尻尾が暴れて、男どもを巻き上げるように蹴散らしていた。





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