森に住む者13



「待って、マリジューレ!」



 エリザの声が響く、マリジューレの持つ魔法槍の回りに現れた小さな風の刃が同時に姿を消した。


 その声がなければ俺はマリジューレの放つ風魔法で八つ裂きだったに違いない。



「エージ様はお怪我をされています、まずはヒールをして差し上げよ」


「で、でも姫様、こやつはあの女性二人を……」


「早くヒールを! エージ様がかわいそうではないですか!」



 エリザが、いつになく凄まじい剣幕でマリジューレを大喝すると、彼女は苦虫を噛んだような表情で俺にヒールをかけた。


 まるで汚物を見るような目線が俺を刺すが、薄い黄緑の暖かい膜に覆われ、ヒールの温もりに包まれる気持ちよさは格別だ。

 彼女の行為と表情のギャップに顔がにやけてしまう。



「ふんっ、なんという気持ちの悪い顔をしているのだ」



 体の痛みがみるみる消えていく、ボロボロになっていた衣服も元に戻った。



「マリジューレ、あちらにも」


「はい、姫様」


「生きていたんだな、エリザ……だが、これで借りを作ったとかおもうなよ」


「フフッ、これを借りと言わずに何と言いますの? カロンさん」


「なっ! エリザお前!」



 カロンがヒールゾーンから抜け出そうとするのをアルメリーが手を引き止める。



「止めましょ、カロン」



 奥歯を噛み締めながら、エリザを睨み付けるカロンの服が戻っていく、だがそれは元のエルフ服ではなく、真っ赤なビキニのようなトップスにパレオを巻いたような衣装だ、こっちの方がエルフの時よりも露出が多い、更にこのプロポーションは、目のやり場に迷う。


 アルメリーは、頭の左右からニョキニョキと、角が生え、全身黒レザーの光沢を放つボンテージ衣装だった、それは業界で[女王様]と呼ばれるような、タイトなミニスカートから細長い尻尾まで見えた。



「こ、これは?」



 そう思ったのは俺だけではないだろうと、周りを見回すが、エリザもグラタンも表情を変えない。マリジューレだけは目を見開いている。



「改めまして、ご無沙汰しています、アルメリー、カロン」


「まずはお礼を、助かりましたエリザ姫」



 会釈をするアルメリー、その外見からは想像もつかない礼儀正しさだった。



「ま、まぁ、ヒールをしてくれたのはそこのメイドだけどな! エリザじゃないし」



 カロンが腕を組み、背中を向ける。



「おい小娘、先ほどから姫様に失礼ではないか?」


「んだと? お前こそ誰だよ、それにそこのガキも」


「ガキとは我のことなのらか? 我の名は――――」



 グラタンとマリジューレが一歩前へと踏み出すと、同時にエリザが中に割って入る。



「まあまあ、良いのではありませんか。その代わり、アルメリー、カロン、あなた達には一つ頼みがあります」


「頼みぃ? ああ、この前来たときエロ本をくれと言っていた、あのことか」


「ち、違います! そんなことは言ってません」


「言ってたじゃん、『女性から攻めるエッチの方法』だろ?」


「いや、違っ」


「エリザ姫、あいにく本はこの有り様ですよ」



 アルメリーが村を指差し、苦笑いを浮かべる。

 グラタンとマリジューレも、同じようにひきつった笑みだった。



「ち、違うのです、あなた達は、私達と一緒に来てもらいます、魔王討伐のために!」



 エリザは、みんなの苦笑いを掻き消すように、声を荒げた。



「あんた、また行くの?」


「貴様、姫様に向かいなんという無礼!」


「だって、前回ダメだったじゃん、正直、魔王バルアリと戦って、生きてるほうが凄いよ」


「だと思うでしょ? でも今回は彼がいるから大丈夫なのです!」



 エリザは突然俺の左腕に自分の右手を絡めてきた。

 満面の笑みを浮かべたエリザを見るや否や、アルメリーの表情が変わる。



「おい、エリザ……人の婿様に何やってんの」


「「む、婿様ぁ?」」



 大きな口を開けて驚くエリザ達三人、俺の右腕にはアルメリーが左腕を巻き付けた。



「「どういうこと?」」


「エージ様」

「婿様」



 どうすればいいのだ、何を何と言えば二人を納得させられるのだろうか。


 この場から逃げたい、穴があれば入りたい感じだ――――

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