森に住む者12




「サキュバスちゃんが、知らないのなら教えてあげる」



 チンジャーの口が開く、俺は必死にその後に出ると思われる言葉を掻き消そうとした、



『っだーーー!!! やめてくれー!!』



 と、いう声は、声にならず、口をパクパクと魚のように動かしているだけだった。



「姉様、それって」


「ええ……浮気、ってことよね?」



 どうやらアルメリー達は、エリザと俺が一緒に旅をしている一部始終を聞いたようだ。



「婿様……」



 衝撃を受けたせいで、目が霞んでいるが、振り向いたアルメリーの表情はなんとなく想像できた。

 なんとかターゲットを向こうに変えなければ、俺はこの場で命の炎を絶やすことになるだろう。



 ゆっくりと歩いてきたアルメリーは、俺の胸ぐらを掴むと、片手で一気に持ち上げた。



「浮気?」


『いや、浮気じゃない、そもそもエリザとは何の関係でもない……まだ』



 ダメージが酷く、言葉に出せない代わりに俺は必死に首を左右に降った。



「姉様、それよりこいつ、どうにかしない?」


「それもそうね、それに違うって言ってるじゃない! ぶりっ子!」




 グッジョブ、カロン!! 助かった。



「後でしっかり、説明してもらうからね」



 俺はその場にポイ捨てされるように手を離された。身体中が痛いが、なんとか気を向こうに向けることができた。

 そして自分の愛する婿様に疑いをかけたとなると、チンジャーへの怒りは倍増するだろう。



「ぶ、ぶりっ子ですってー!」



 目を見開き歯をくいしばるチンジャー、確かに、アイドルは多少なりともぶりっ子することも必要だろうが、彼女はどうやら違う路線だったようだ。



「ハッ、でもあんたら、その攻撃、童貞の私には効かないから」


「え?」


「知らないの? あんたらの妖術、童貞や処女には効かないのよ!」


「なっ……」



 カロンとアルメリーの目が俺に向けられる、



「「だから、かぁ……」」



 なんだか童貞であることが悪いような気がした――――



 童貞!?



 俺はカロンとキス無双をした、だけど石化していない、だとすればアルメリーと性交したというのは、彼女の……嘘?




「もう、無理っ!」



 アルメリーは俯いたと思うと、肩を震わせ、駄々をこねるように泣き出した。



「ね、姉様」



 カロンが駆け寄り肩を抱き一緒にうずくまった。

 分からなくもない、自分達の技が一切効かないとなれば、もう勝ちようがない。


 すでにもう二人から、戦うといった意欲は感じられなかった。



「フフッ、まぁそうなるわよね、大丈夫、殺しはしないわ」



 チンジャーがアルメリー達に近付こうと足を出した瞬間、動きが止まった。



「え?」



 遠くの魔物が吹き飛んでいくのがみえた、竜巻が起こり、それに飲まれるように巻き上げられ、空高く舞い上がる。

 更に竜巻は赤く染まり、火柱となり、一瞬で俺達の周りの魔物まで吹き飛ばした。


 熱風で息苦しい、ぼやける視界の中、炎でできた大きな顔が現れ、口が開きチンジャーの前でその動きを止めた、



「え、やだ、私まだ処女だし、まだ――――」



 躊躇いもなくその口はチンジャーを飲み込んだ。

 次の瞬間、突風が吹き炎は一瞬で消えて、無数の宝石が月明かりに反射して幻想的な景色を写し出していた。


 森は焼け果ててしまったが、元の静けさを取り戻した――――





「だぁから、この森は迷うから嫌いといったのら」


「いや、でも、私の勘ではこの辺りに落ちたのです」


「まあどちらでもいいではありませんか、こんなに宝石も手に入ったことですし、捜索はまた明日、ということで、姫様、早く宿屋でお風呂にでも行きましょう」


「いけません、マリジューレ。エージ様にもしものことがあったらどうなさるのですか」


「あやつは伝説の勇者なのら、もしももしものことなんてないの……ら?」




「「あ」」



 何人の声が重なっただろう、チンジャーが変化した大きな宝石を挟んで三人と、三人が大きく目を見開いた。



「エ、エージ様? な、何てことを」


「おい、貴様まだそんなことをしているのか」


「ほらな、心配して損したらな?」



 エリザ達は何か大きな勘違いをしているようなのだが――――



 裸の姉妹が抱き合いしゃがみこみ、涙を流している。その側に疲れはてたように倒れる俺、誰が見ても俺が姉妹を犯したようにしか見えない。



「やはり貴様は、一度死ななきゃわからんようだな」



 マリジューレは槍を天にかざした――――



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