森に住む者11



「はあーい、じゃあもういっちょ!」



 今度は明るい声が聞こえる。

 アイドルのコンサートで聞くような明るく張りのある声が


 その声を聞くや否や、再度地面が抉れる、次は俺達の少し前で魔物が宙を舞う。

 アルメリーの姿が小さく見えた。



「みんなー、今日はありがとー」



 なんだこのアイドルチックな声は、それに「今日はありがとう」って、何かのコンサートを意識しているのだろうか、そう思って再度見上げると、人間の何倍もあろうかと思わせる四羽の大きなカラスから、ヒモが伸び、空中ステージが出来上がっているではないか、明るく派手なライトと、大音量で鼓膜が破れそうなスピーカーが二つ左右に並んでいる。



 闇夜に浮かぶ空中ステージから一人の女性が飛び降りた。

 前回りを何度も繰り返し、猫が着地するようなしなやかさで、その人物が、ちやめきにしなのぬした瞬間、俺は退け沿いた。



「いっ!」


「やぁ、久しぶりだね、勇者君」



 俺の前に現れたその人物は、あの宿で会った魔王親衛組の一人だった。



「お、お前……」


「はい! 魔王親衛組、武道担当の、チンジャーです」



 こいつもアイドルのような自己紹介か、それにしても、中華系の武道着がはち切れそうな胸の大きさと、ハイキック一発でパンモロだろうと感じさせるタイトなミニスカートだ、大きなツインテールを振り回し、片足を上げて、カンフーのような構えのポーズをとって見せた。


 その時点で、ムッチリとした太ももの付け根に、白い生地が少し覗いている。




 見るな、見るんじゃない俺! こいつは男だ、男なんだ――――






 右腕に装備してある漆黒の爪を撫でている、



「いやぁ、それにしてもコレ、凄い威力だぁ」


「てか、お前、魔王親衛組なんだったら……仲間、殺したのかよ?」


「うん、そだよ」



 何が悪いのかと言わんばかりにキョトンとしている、



「だって、魔王様のご命令は、そこの二人の珍獣を連れて帰ることなんだもん」


「ち、珍獣って――――」


「おい、あんた、いきなり現れて私達のこと珍獣呼ばわりって、良い度胸じゃない」



 カロンが露になった胸を張って俺の前に出た。



「えー、だってそうでしょ、メデューサとサキュバス、珍獣じゃん」


「珍獣って言うな、小娘!」



「んぐっ」



 カロンの目が赤く光る。同時にチンジャーの唇は呆気なくカロンに奪われた。



「ぷはぁ……さあ、石になるがいいわ」



 カロンのどや顔、そして俯きながら肩を震わせていたチンジャーは顔を上げ、笑い声を木霊させる。



「アッハハ、あんたら、そんなだからクソ弱っちいのよ、その妖術、効く時と効かない時があることに気づいてないの?」


「え?」



 驚きが、隠せないカロンを他所に、赤い閃光が目の前を横切る、



「それは、自分に気合いが足りないからよ!」


「んぐぐ!!」



 近くまで来ていたアルメリーが間を開けずにチンジャーの唇へと吸い付く。



「がはっ」



 腹部に一撃、背が小さなチンジャー、覆い被さられる体制からの一撃は容易いものだ。

 透明な唾を吐きながら後退りするアルメリー、



「わ、私達は、珍獣、そう呼ばれるのが嫌で、このような格好をして、エルフとして暮らしていたのよ……」


「でも、男の生命力を抜かなきゃ、生きていけない……でしょ? だからそっちのメデューサが、死体を石に変えて隠してたのよね」


「な、なんでそれを……」


「魔王様は偉大です。とでもいっておきましょう、じゃ、次は私の番よね? ワンマンライブ、始めちゃおっか?」



 チンジャーの最後の一言と同時に俺の視界が揺らいだ。



「ごめんなさい、勇者君。キミには少し動かないでいてほしいの」



 下から声が聞こえる。見ると、チンジャーにスライディングキックで蹴られた俺の足が真逆に曲がっている、認識すると、激痛が走った。



「うぐあああああああー!」



「うるっさいなぁ」



 地面に顔を打ち付ける前にチンジャーが俺の頭を掴み、そのまま地面に叩きつけられる。


 視界が掠れる、かろうじて音は聞こえる。ただもう立ち上がることも、手をあげることさえも出来ないだろう、たったの一撃で、情けないことだ……



「婿様っ!」


「婿ぉ?」


「貴っ様ぁー!!」


「なになになに? 婿って、あなた勇者君と結婚したの? え? マジ? じゃあ、あの姫騎士ちゃんは? どうしたの?」


「え? 姫騎士? なに? 姫騎士って」


「え? サキュバスちゃん知らないの?」


「……うん」




 ヤバッ、なんかドロドロな空気になりそうな予感しか無かった。




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