森に住む者10




「ごめん、なんか……ごめん」



 情けないと思う他無かった。

 硬く目を瞑り、直後に来るであろう激痛に耐える準備をした。



「バカ、バカァアー!」



 カロンが叫んだ、布の引きちぎれる音がする、衣服全てを剥ぎ取られているのだろう、許してくれ、俺も……時期に、死ぬ――――










「ありがとう……婿様」



 アルメリーの声だ、なぜ後ろにいる彼女の声がすぐ隣から聞こえる?


 次に目に飛び込んで来たのは金色の鎧、他の奴とは一回り大きなリーダー的な金色の鎧トカゲが埃を巻き上げうつ伏せに倒れた。



 ボロボロで辛うじて胸と陰部が隠せているエルフ服を身に纏ったアルメリーが、俺の前に立っていた。



「えっ、なんで?」



 手首で口を拭って笑うアルメリー。



「あれ」


 指をさした先には巨大なトロルが倒れている。更によく見ると、額に俺の剣が刺さっているではないか。



「さすがです、さすが私の婿様っ! 好き!」


「あ、いや……」


「後は私に任せて下さい、もう油断しないから」



 アルメリーの両目が赤く光る。上半身の服を自分で引きちぎった、こんな物があると動き辛い、と言いたそうな感じだった。

『ぷっるん』と、まではいかなかったが、形のいい胸が少し揺れた。



「婿様、私の目、見ないで下さいよ」



(うん、そっちより先に目が行く所があるよ)


 そう言うとアルメリーは、目にも止まらない早さで手当たり次第の魔物達とキスしまくった。

 なんというか、強いというのは分かったのだが、その戦闘方法が、なんとも複雑な気分だ――――



 赤い残像を周囲に残し、俺の横に帰ってくる、唾をすする音を出しながらアルメリーは大きく息を吐き、倒れた魔物を見る。



「ね、姉様っ」



 全裸のカロンがアルメリーの隣に駆け寄る。



「姉様っ、こいつらには私達の妖術が効かない、この隙に逃げましょう」


「何言ってるの、カロン」


「私の能力は今まで完璧だったでしょ」


「そ、それはあの婆さんが召還した男達だけじゃない、さっきのトロルは? 魔物には効かなかったのでしょ?」


「あー、あれは油断しただけよ、それよりあなた、下に何か巻いたら?」


「え?」



 突然言われた言葉で、カロンは気がついたように辺りを見回した。しかしそれどころではない、と、いうことにも気がついたようだった。



「姉様違うの! 魔物には効かないの!」



 カロンはアルメリーの手首を掴み引っ張ったが、アルメリーは足を踏ん張りその場を動こうとしない。



「まったく、あなたは昔から詰めが甘いのよ、だから『効かない』と、思いこんでるだけよ」


「違う!」


「じゃあ、あれはどうなの?」



 アルメリーの前にうつ伏せで倒れたまま、ピクリとも動かない金色の鎧トカゲ、その姿からは、生気が感じられない。



「なんで? ええ?」



 パニックになりそうなカロンの肩を叩いてアルメリーは前に出る。



「婿様を、頼むわよ」



 真っ赤に光る目、腹の底から出したような深い唸り声が聞こえる。深い背中を丸めて顔を上げ、今にも襲いかかる準備万端といった感じはまるで彼女自体がモンスターのようだった。



「姉様っ!」



 カロンが叫ぶのと同時にアルメリーは魔物に飛びかかった。

 今までとは動きが違う、物凄い速さだった。驚異的なジャンプ力で羽の悪魔にも飛びかかった。次第に彼女の姿を目で追うこともできないくらいになると、赤い残像を残して魔物はバタバタと倒れていく。



「すっ、すげぇ」



 これならいける、カロンもそう思ったのだろう、もう否定的な言葉を叫ばなかった。




 ものの五分もたたないうちに全滅させるのではないかと思わせるようだった。



「オオォオオーー!!」



 大きなトロルが地響きを成して倒れた瞬間、アルメリーは魔物のような雄叫びをあげた。



「姉様が! これ以上はダメ、魔物になっちゃう」



 カロンが駆け寄ろうとした時、周りに倒れた魔物がむくむくと起き上がり始めた。



「えっ?」


「うわっ」



 遠くにいたアルメリーは、瞬く間に魔物に囲まれて見えなくなった。



「アルメリー!」


「む、婿様ぁー!」



 彼女の声だけが聞こえる。それは彼女が正気に戻ったことを教えてくれた。だが、好機から一転、ピンチに戻ったのも分かる。魔物は俺達にもジリジリと間合いを詰めて来た。






 悪魔の爪跡――――






「なんだ!」



 どこかから声が聞こえた。

 呟くような、冷静沈着で、冷たい声が……



 その瞬間、目の前に衝撃がはしる。吹っ飛ばされた俺が次に見たものは、大きな爪で抉ったように割れた地面と、辺りに散らばった魔物だった。


 魔物は次々と輝く宝石に姿を変える。つまり倒されたということだ。



「た、助かった……」



 だが、誰が俺達を助けてくれたのか、目線を上げると、空から何かが向かって来るのが僅かに見えた。







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