森に住む者6




「っんバカッ!!」



 どれだけ無双が続いたのだろう、額に手を置かれ、引き剥がされるように彼女の唇から離された。

 ハアハアと荒い息づかい、思い知ったかという感じだ。全身の力が抜ける。仰向けのまま、大の字になった。



「まあいいわ、予定とは違うけど……」


「予定?」


「ふふ、時期に分かるわ」



 そういうと彼女は不振な笑みを浮かべる、大きなお尻を降りながら廊下を歩いて行った。


 一瞬とはいえ獲物を捕獲するかのような鋭い目をしていた彼女を見えなくなるまで目で追った。剣を持っていれば違っていたのだろうか、右手をかざすと、力を入れすぎたのか、かなりの髪の毛が絡んでいた、ごっそりと掴み取ったという感じだ。左手も同様だった。


 次の瞬間、両手から無数の蛇が大きな口を開けて顔の前に現れた。

 息を飲み込む暇もなかった、目を固く閉じる。


 しばらくそのままだった、恐る恐る目を開けると、蛇は消え、まるで幻覚だったようにその場は静けさを取り戻した。

 とはいえ外の死体をもう一度確認することはできなかった。

 アルメリーに真相を聞くしかない、俺は中腰のまま、一度部屋に戻ることにした。




「遅かったね、迷った?」



 部屋に帰ると、アルメリーは服を着ていた。



「あ、いや」


「なんかげっそりしてない? 廊下で何かあった?」


「ああ、実はさ――」


「ねぇ、あなたは私のこと好きだよね?」



 途端に言葉を遮られる、



「え?」


「え? じゃなくて、好きだよね?」



 すぐ目の前まで間を詰められる、眉間に寄せられるシワが、純粋さを鈍らせる。



「エッチまでしたんだから、好きに決まってるよね、だから他の女なんかに興味ないよね?」


「な、何だよ急に」



 口角が上がるけど瞳の奥が笑っていない、勢いのある口調、アルメリーは後退る俺をそのまま壁まで追い詰める。



「ね?」


「え?」


「よね!」


「う、うん」




 壁を背中に付けたまま、首を立てに振るしかなかった。それを確認したアルメリーは、「ふふん」と、小さな子供が喜ぶような声と一緒にくるりと背中を見せた、長い髪がふわりと膨らんだ。



「で、実は何?」



 それが言いたかったのか、あたかも外の俺を見ていたかのような先手だ、だが俺もそこまでバカじゃない、たった今ヤったかもしれない女に他の女と無双キスをしたなど、言う訳がない。


 そう、俺が言いたいのは他にある……






「死体……」


「ん?」


「外の死体の山は何だよ!」




 キョトン顔で俺を見ている――

 虫の鳴き声が聞こえる――

 こめかみの汗が、頬を伝う。





「アッハハハハハ!」



 沈黙を切り裂くように、アルメリーは、突然お腹を抱えて大声で笑い出した。



「何かと思えば、アハハ」


「な、何で笑うんだよ、お前ら頭おかしいぞ!」


「ゴメンゴメン、あなたよく見た? あれ、石像、石よ石」


「石?」


「そう、妹のカロンが趣味で彫刻してるの、その失敗作よ」


「なんだ、そうか、石だったのか」



 確かにまじまじと見ていない、それを聞いて胸に詰まっていたものがとれたように楽になった。



「今日はもう遅いわ、寝ましょ」



 そう言うと彼女はベッドに入り、掛け布団を広げて俺の場所はここだと、ベッドを軽く二回叩く。



「い、一緒に?」



 大きく二回うなずくアルメリー、



「夫婦なんだから、普通でしょ?」



 夫婦になった覚えはないが、まあそこまで言うならば、まあ、さっきまでは裸で寝ていた訳だし……



「じ、じゃあ……失礼、しまーす」



 ゆっくりと布団へ入ると、俺を包むように全身で抱きつくアルメリー、彼女の温もりが伝わってくるが、動けない。



「ア、アルメリー?」


「何? も一回ヤる? いいよ」


「ち、違っ、動けないよ」


「うん、知ってる、だって……」



 抱きつく力が強くなった。



「あなたさっき『お前ら』って、言ったから、『ら』って何? 誰と誰のこと?」


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