森に住む者5



「あっ」



 声が出た時には手を握られていた、一瞬力が入ると、俺は彼女の方に引っ張っられた。その反動で大きな膨らみが腕に押し付けられる。



「んっ」



 吐息のような声が耳元で聞こえる、同時に甘い柑橘系の香りが彼女の首もとから漂う。



「……ねぇ、私にもしてよ」



 囁く声が聞こえる、してと言われても俺にはどうやったのかも覚えていない、



「し、してって、な、何?」


「んもう、いいから」


「ハ、ハハハ」



 苦し紛れに出た引き吊った笑いは、完全に無視される。



「姫よりも……激しく、して」



 彼女の息づかいが荒くなるのがわかる、肩を捕まれ無理やり向かい合わせにさせられる、いったいこの森に住む者は何なんだ、後頭部に両手を回され、胸の膨らみの圧力を感じた時、俺の目線の先に何かを積み上げた山のようなものが、月明かりに照らされて、うっすらと見えた。



「うっ!!!」



 頭で理解する前に俺は目の前の彼女を突っ張って後ろに下がった。そのまま手すりから上半身ごと身を乗り出すように飛び出し、生まれて初めて見た死体という衝撃で、腹の中が掻き乱されたかと思うと口から逆流していた。




「あー、やっぱ気付かれたか」


「な、な、なんだよあれ!」


「ん? 死体」



 その言葉を聞いて更に吐き気が増す、彼女は物怖じない顔だ。よく見ると俺が吐瀉物としゃぶつをぶちまけたその下にも人影があった、何人もが重なりあっている、腕がちぎれ落ちている人や首が無い死体やらで溢れかえっているではないか、



「な、何だよここ、何だよお前達は」



 白けてしまった。正に彼女はそう感じているのだろう、大きくため息をした後、頭をかきむしりながらこちらに歩いてくる姿からは、さっきまでのエロさは微塵も感じられない。



「じゃあ、キスだけ、しよ」


「な、何言ってんだよ」



 腰が抜けていた、立ち上がるとまたあの死体の山を見てしまうのが嫌だったのもある。

 俺は這うようにその場から逃げようと手を伸ばした。



「だ、か、ら、キス」



 そんな体制では、すんなり追い付かれて当たり前だ、後ろから服の首根っこを捕まれ、仰向けに倒された。

 馬乗りになり、俺の頬に彼女の親指と人差し指が添えられ、力が入る。ギューッと、唇が競り上がり、彼女の顔が近付いてくる――


 唇が重なる直前で止まる。



「舌、出してよ」



 緑に見えていた瞳は真っ赤になり、長い髪はその一本一本が、意思を持っているかのようにゆらゆらと重力を無視している。何か獲物を捕らえる前のような怖さを醸し出す。



「ほら早く!」



 脅迫にもとれるような大きな声、無理矢理キスを迫られる、キスをすればどうなるというのだ、たかがキス、アルメリーもそう言っていた。


 もう、どうにでもなれ、出すなら全力で、するなら彼女が引くぐらい濃厚なやつをしてやろうではないか。

 俺は思いっきり舌を出して彼女の頭に手を回し、髪に指を絡ませた。



「んふ、頂き」



 彼女の出した舌は二股に別れている、まるでそれは蛇のように――





 柔らかいんだ……



 持てる限りの知識で舌を絡ませる、ぐるぐると口の中を回転させたり、彼女の口内を、俺の舌が無双している。


 ゆっくりと頭を持ち上げようとする彼女の後頭部を押さえてまだ逃がさない、目を見開いた彼女は、俺の目をじっと見た。お互いの鼻息が触れ合う。



 更に無双は続く――





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