森に住む者3



「お、お嫁さんに!?」


「……はい、ダメですか?」


「いや、ダメというか、こ、こういうのってその、順番とかあります……よね?」


「順番……ですか?」



 パンッと手を叩く音が聞こえる。



「はいはいはい、アルメリーや、まだ婿様は混乱なさっておる、そう急ぐことはないぞ」



 祈祷師の婆さんが俺達の間に割って入った。



「いずれにせよ、あなた様にはここの森の王になっていただきますじゃ、まずは宴を」



 更にもう一度手を叩くと、大勢いたエルフ達が左右に分かれ、その間から食事の乗った大きな皿が次々と俺の前に運び込まれだした。


 どこからともなく民族的な音楽も流れだす。その勢いに圧巻されていると、いつの間にか後ろにあった壺は取り除かれ、代わりに大きな一枚の葉っぱが敷かれていた。

 すでにアルメリーはその葉の面積を半分残して座っている。



「ささ、王様こちらへ」


「お、王様?」



 皿を運び終えた女エルフは俺をその葉の上に座れと導いた。


 なされるがまま、俺はその場に、アルメリーの隣に座る。



「婿様、少々お待ち下さい」



 女エルフに手を引かれ、腰を下ろした瞬間にアルメリーは席を立つ。



「あ、うん……てかさ、俺の名前――」



 そう言いかけたところで、アルメリーは目を大きくして口を尖らせる。



「何か?」


「……いや、何も」


「そうですか」



 不安そうだったアルメリーは、クシャッとした表情と共に見開いた目を半円を描くようにして笑った。






 ……何かがおかしい



 目の前には肉の丸焼きや、木の実、野菜など多くのご馳走が並ぶ、こんなにもてはやされるのに誰も俺の話を聞こうともしない、ましてや俺を婿にしようとしているアルメリーというエルフ姫は俺の名前すら知ろうとしない。



「なあ」



 目の前を歩くエルフに声をかける。



「……」


「あ、ちょっと」


「……」



 突然人が変わったように全員がよそよそしく感じられた。

 何人ものエルフが前を横切るが皆、気付いてくれない、というよりも全員が無視している――

 無機物のように食事を運んでは建物の中に入る。



「おい、いったい何なんだ、俺は帰りたいんだよ」


「どこにですか? お婿様」



 アルメリーが隣に立っていた、周りが皆無表情になった中、彼女の笑顔でなんだか俺の心は救われた。


 どこにと言われればどこになのだ、エリザやマリジューレ、グラタン達は無事なのだろうか、今どこにいるのだろうか、エリザのことだ、きっと心配しているに違いない。

 早く彼女達と合流したい。こんな茶番している場合ではない。俺は立ち上がろうと膝を立て上半身を起こした。



「そう、俺は――――」



 ――――俺……は、



 突然目の前がアルメリーになった。

 大きなグリーンの瞳の中に俺の目が見えた。その目はゆっくりと閉じ、同時に柔らかい感触が唇に行き渡った。


 時間にすればほんの数秒なのだろうが、何せ初めてのことだ、数十秒いや、数分にまで感じられた。



「って、何なんだよいきなり!」



 俺は倒れるように退け沿いた、柔らかな感覚を感じながらも、手の甲で唇を押さえていた。



「え? 何って、キスですけど?」



 俺のファーストキスはこんな形で終了した。俺のリアクションに驚いた表情で固まるアルメリー、



「婿様、たかがキスくらいで、どうなさいました?」


「あ、いや…」



 この空気、初めてだったなんて言えない――


 清楚な顔をしていながらかなりの経験者だと思えた。ここは俺もハッタリだとしても経験豊富な男を演じなければ、胸を張り、腹に力を入れ、裏返りそうな声を必死に耐える。



「そうか、お前はそんなに俺を婿に迎えたいのか?」


「え? はい」



 かなりの経験者のようだが、こちらも何年もの間、エロ動画で鍛えた変態プレイが頭の中に叩き込まれている、このくらいの年の娘は少し怖がらせればすぐに泣いて謝るだろう。



「俺が婿になるということは結婚するってことだよな」


「そうですよ」


「じゃあ、今から服を脱げ」


「……え?」


「夫婦になれば、そういうこともするだろう、しかも残念ながら俺は変態だ、お前の知らない恥ずかしいプレイに興奮するんだよ」


「そ、そんな……」



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