森に住む者2



 ――こ、ここは、どこだ?



 目の前が揺らぐ、息が、できない――


 この感覚は――


 水?



 そうだ水の中だ、それに狭い、手を伸ばすと壁のようなものに当たり、両手を広げられない。大きな壺の中で背を丸めているような感じだった。



 俺はマリジューレに蹴られてグラタンの背中から落ちたはず、なぜこんな場所にいるのだ。そんなことよりも息ができない、まずはこの状況をなんとかしなければならない、足を踏ん張り、顔を光のさす上に向け、思いっきり伸ばした。



「ぶはぁー」



 大きな水しぶきとともに上半身を水中から飛び出した俺は大きく息を吸い込んだ、その反動で噎せてしまう。




「ゲホッ、ゲホ」




 どうやら生きている――――


 本当に壺の中にいたようだ。人が一人すっぽりと入る壷。両手を膝の上において、腰を屈めると、足下の水に移る俺が見えていた。


 静寂した空気の中、松明の優しい灯りが俺を包んでいた。



「婿様じゃああああー!! 天から婿様がおいでなさったー!!」



 次の瞬間、大歓声がわく、その声に驚き顔を上げると、俺は更に驚愕した。

 目の前に居たのは、その全員が耳の尖った緑髪緑目、ファンタジーでいうところのエルフと呼ばれる生き物、ざっと百人はいるだろうその集団と俺は対面していた。



「な、なんだここはぁああ」



 って、婿?





「よくぞ、おいでました、お婿様」



 祈祷師の格好をした老婆が一人、近づいて来て俺の顔をじっと見る、すると振り返り両手を広げ言った。



「皆のもの、願いは届いたのじゃ! 空から婿様が降臨されたのじゃー!」



 再度ドッと歓声が上がる、そのまま勢いで若干仰け反るくらいだった。



「ささ、婿様、こちらへ」



 壷から出ろと言わんばかりに手を差しのばす老婆、



「あ、どうも……って、婿ってなんだよ、お前ら何だよ、ここは、どこだよ!」



 一方的に進められる儀式のようなものに、腹が立ち思わず大きな声で言うと、歓喜のざわめきは一瞬にして静まりかえった。



「いやいや、驚くのも無理もないでしょうが、あなた様は今、我らが召還によって呼び出された第二千八百七十五人目の婿様ですのじゃぞ」


「は? 違うよ、俺は蹴られてだな――」


「さ、アルメリーや、こちらにおいで」



 って、この婆さんは人の話を聞こうともしないのか、無視しているように俺の言葉を遮る。



「だから、婆さん、俺は……」



 言葉が詰まったというか、止まった。

 ステージのようになったこの場所からはほとんどのエルフが見えた。



 皆、緑色のノースリーブにカーキのロングTシャツとズボンという格好だったが、ステージの袖にいたアルメリーという彼女だけは少し違う衣装だった。


 緑色のシースルーワンピースと、カーキのスキニーパンツ、眉毛の丁度上の辺りで一直線に揃った前髪、宝石がちりばめられたティアラが輝いている。恐らくこの集団をまとめている存在だということは分かった。


 肩甲骨まで伸びた毛先を弄りながら気だるそうにしぶしぶ歩いている。

 その姿はもといた世界の渋谷にいるような女子高生と同じような感覚を覚えた。



 色気の全く無い姿だ、俺はこの手の女子とは話が合わないから嫌いだ。できれば関わりたくない――


 目の前まで歩いて来て止まった。

 どうせ見た目でキモいとか言ったりしてからかってくるだろう、だがこの世界では昔の俺を知る者はいない、社会の、そして大人の厳しさをガツンと言ってやろう。




「あの……」


「!!」



 か細い消えそうな声。

 俺を上目遣いで見上げた瞳は潤んでいる、頬は心なしか赤らみその表情からは恥ずかしさと緊張感が伝わってくる。


 渋谷女子ギャル高校生とは全く感じさせられない。むしろその真逆、俯き歩く姿は恥ずかしかったからなのか?



「私をお嫁さんに……してもらえますか?」




 なっ……いきなり!?





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