赤い戦士5



 木の棒が土に当たる音がする。

 足を引きずっている。そしてまた棒を前にだす。

 俺の体重はその棒に全てかかっていると言った方がいいだろう。

 身体中が火傷を負った様に痛い、何度も言うが俺は無敵ではなければ、勇者でもない。



「早くしろ! 時間がないのだぞ」


「そんなこと言ったって、こっちは落雷に打たれたんだぞ」



 焦げた服に、髪の毛はアフロヘアーになっている。「リトルヒール」という生きられる最低限の回復をしてもらっただけの俺は、歩くのが精一杯だった。



「それは貴様が悪いのだろうが」


「俺は何もしていないだろ?」


「何もしないのが悪いと言っている、ジロジロといやらしい目で見てくるばかり。少しは悪いとか思わないのか!」


「お、思ってるよ」


「ではなぜ、見る」


「なぜ......と言われても」


「まあまあ、良いではないか、マリジューレよ」



 エリザが仲裁に入る、大体このパターンが多い。その都度、煮え切らない顔で俺を睨んで、終了するといった感じだったのだが、しかし今回は違った、収まりきらなくなった彼女の鬱憤うっぷんが、溢れ出す。



「この際ですから言っておきます。姫様、この男はですね――」


「あー! もうやめてくれ、今話せば面倒なことになるだろう?」


「面倒とはどういうことですか、エージ様。言ってみろマリジューレ」



 顔を突き出し、覗き込むように俺とマリジューレの顔を交互に見た。



「あ、いや......だからそれは」


「ですからこの男は」




「キャーー!!」



 突然つんざくような悲鳴が木霊した。

 見れば、小さな女の子が両手いっぱいの大きなパンを抱えて走っている。その後ろには五メートルはあろう大きな鶏がクチバシで突きながら女の子を追っていた。



大鶏おおニワトリだな」



 魔物か! 思った瞬間に女の子は足を絡めてつまづいた。弾みで抱き抱えていたパンが転がる。



「おい、ロリコン勇者。助けてこい」


「は? 何言ってんだ!」



 俺は言い終わる前に走り出していた、実際にこんな境遇に出くわしたのは初めてだったが、自分が死ぬ時は誰かの役に立って死ねれば本望。そう思っていたことを思い出した。

 ましてやあんな小さな子供を見殺しになんてできるわけない。



「あ、待ってエージ様」



 エリザの声が後ろから聞こえる、待ってなんていられない、誰も行かないなら俺がやるしかない。


 女の子を見る大鶏のくちばしが光る――



「おい!」



 俺の声で大鶏はこちらに目を向け、首を傾げる。

 背中の剣を抜く、近くに行けば行くほどその大きさに圧倒されそうになる。

 振り上げた剣を、大鶏の太もも目掛けて思いっきり振り下ろす。



 ぐにっと、柔らかい感覚。刃が減り込むのが分かった。



「グエェー」



 吹き出る赤い血が俺の肩を掠める。

 大鶏の狙いは女の子から俺へと移った。



「エージ様!」



 エリザが追いついてきた。

 これなら行ける、ゾーンというものに入った! そう確信した俺は再度、剣を構えて大鶏を睨む。



「大丈夫、エリザは女の子を」



 俺は片手で剣を、もう片方の手を横に出し、ここは任せろと言わんばかりに格好をつけた。

 ドバドバと体に行き渡るアドレナリン。体が自由に動く。



「いやでも......」


「いいから早く!」


「あ、は、はい! エージ様」



 エリザは女の子を抱き抱えるのを見送ると、俺はゆっくりと大鶏の前を横切る。



「おぃ、チキン野郎。俺と出くわしたのが運のつきだったな」



 踏み込み太ももにもう一発入れた。痛みに耐えかねた大鶏は、大ハンマーのような大きなくちばしを振り下ろし地面を抉った。

 一撃を交わすと、更にもう一撃、その速さはスローモーションのように見えて、全てをかわすことができる。



「遅い、遅い!」



 さらには回り込み逆側にもう一発。グサグサと刺さっては抜き、斬り込んでは、返り血を浴びる。

 少年漫画を読んでいてよかった。まさに俺はその主人公になった気でいた。



「ファアー、ハッハッハァー!」



 笑い声が大きくなり、大鶏は大量の血を流しその場に倒れた。戦意が無くなったことを確認した俺は、エリザと女の子のいる方へ歩く。


 俺、強ぇーんじゃね? なんだかそんな気になり、ドヤ顔だった。



「また、つまらぬものを切ってしまったよ......」


「エージ様......」



 血がベットリと付いた剣を振り、さやにしまう。



「お兄ちゃん」


「大丈夫だったかい?」



 土に塗れてしまったパンを見る女の子。その表情は今にも泣き出しそうだった。



「あぁ、また新しいの買ってあげるから」


「本当? お兄ちゃん」


「ああ、本当だとも」


「わあい」



 小さな女の子は俺の足にしがみついた。

 よしよしと、頭を撫でる。なんだかやっと自分も役に立ったと思うと清々しい気分に見舞われた。



「あの、エージ様」


「ああエリザか、怪我、無いか?」


「あ、はぃ大丈夫ですが......」



 両手を空に伸ばし、グーッと力を入れる。

 無我夢中だったが、体力が無かったのは事実のようだった。その反動で折れるように膝から崩れて落ちた。



「エージ様!」


「お兄ちゃん!」


「マリジューレ、命令だ、ヒールオールをして差し上げよ」


「はい、姫様。貴様......その底力だけは褒めてやろう」



 微かに見える視界にマリジューレの足が映った。

 突然目の前が暗くなったと思うと、体が温まるのが分かった。

 次第に視界がクリアに晴れてくると、彼女のわりには下半身が露わになっているのがわかる。

 というか、モロだ。


 今俺の目線の先には白い綿生地に汗ばんだ太ももが飛び込んでくる、時折膝を動かし見せる角度を変える。


 完全にスカートの中を俺に見せているようにしかみえない。




 ――これは、わざとなのか?


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