赤い戦士3



「では、エージ様がハニートラップにかからないかどうか、この幻覚草げんかくそうを使って確かめてみましょう」


「幻覚草?」


「そう、です、わっ」



 突然エリザは背中に隠してあった黄色い花を俺の前で振るう、大量の花粉が顔を包む。



「わっ、何だよ」


「黄色い幻覚草ですわ、時期にエージ様は幻覚を見ます。もしその幻覚に打ち勝つことができれば、無傷で帰って来れます」


「じゃ、じゃあ負けた場合は?」


「死にますわ」


「ええ!?」



 頭がグラグラしてきた、視線が定まらない。



「でも大丈夫です、エージ様は無敵ですわ」


「いや、そういうことじゃなくて! あ、違うんだ、俺は無敵でも勇者でも――」






 ***





 石造りの屋根が見える。

 窓からは月明かりが差し込み、ふわりとした背中の感触、ベッドの上に横たわっている。

 幻覚と言えども感覚は現実と変わらない。突然こんな場所にいることに驚いた。



「ん、んんーん」



 寝苦しそうな、それでいて悩ましくも聞こえる声が耳元で聞こえた。右に顔を向けると水色の髪をした女の子が寝返りをうって俺の顔の前に現れた。

 俺は目を剥いて驚いた。


 唇まであと数センチ――


 ――


 ――――



 そんな犯罪じみたことはできない、相手はあどけなさの残る見ず知らずの少女だ。

 俺は彼女を起こさぬようゆっくりと立ち上がり薄暗い部屋を見回す、どこか豪華さと気品を感じる。恐らくここはどこか貴族の家のようだ。そしてこの子はそのむすめなのだろう。



 一歩足を出すと何かを踏んだ感触があった。咄嗟に足を退けると、洋服を踏んでいたことかわかった。よく見るとバラバラと脱ぎ捨てられた可愛らしいドレスと下着――




 下着!?




  俺は鑑識のようにしゃがみ込んでその下着を物色した。

 子供用なのだろう、小さな猫の絵がプリントされてある。



「お兄さん、誰?」



 突然の声に振り返る。水色の髪をした少女と目が合った。美しい大きな青い瞳は、月明かりの下でも良く見えた。



「あ、いや、別に怪しい者じゃないんだ」



 声を殺して、キョロキョロと周りをみる。それを繰り返し、必死にアピールした。



「いや、怪しすぎ」


「いや、違うんだ、目が覚めたらここにいたんだ」


「目が覚めたら、私にキス、するんだ」


「そ、そう、目が覚めたら......え?」



 ジトッとした眼差しは確実に俺を疑っている。今にも大きな声で助けを呼ばれそうだ。



「い、いやしてないから、キスとか、してないから」


「じゃあ、その手に持っているもの何?」



 彼女の声が震える。さっきのパンツを思わず握ってしまっていた、



「いや、これは」


「私のだよね?」


「多分......」



 ――――



「キャアァァァー!!」



 予想はできていた――


 だが、どうすればいい、逃げる? にしても入り口は一つ、外に出れば少女の声に駆けつけた護衛に捕まる。


 窓? 突き破って出たところで、ここは一階ではなさそうだ、どこかしらが大怪我をするだろう。


 そうこうしているうちに、ドアが開く。



「お嬢様、大丈夫でございますか?」



 駆けつけた護衛兵と目が合う。彼は俺を見るや否や腰に下げられてある剣を抜いた。



「あ......ハハハ」


「貴様、怪しい奴。さては強盗か!」


「いい、違いま――」



 あたふたと戸惑う俺に、護衛兵は躊躇なく剣を突き立てる、気がついた時には声が出なかった。


 血......


 胸の真ん中に剣が突き刺さり、血が吹き出た。

 まぶたが重たい......目を瞑る様に目の前が真っ暗になる。


「俺、こんな人生でよかったのか? ま、いっか......でも童貞は、捨てたかったな......」





 *



「はいっ、アウトー!」



 熟睡時に起こされる目覚まし時計のアラームみたいに、マリジューレの声が耳に入る。


 その直後、目から星が出る。後頭部が痛い。

 重かったまぶたは軽く開いた――



「はい、アウトっ、貴様死にたいのか?」



 マリジューレが槍を地面に立てると、もう片方の手を腰に当てる。

 その槍をバットの素振りに見立てて、俺の後頭部を降り抜いたのだろう。



「ってーなー!」


「貴様、エロゲーのバットエンドみたいに終わってるんじゃなぞ、この変態ロリ!」


「ロリって......ち、違うよ、男なら普通そうなるものだよ。てか、なんで俺の幻覚がお前らに見えてるんだよ」


「見えるのは貴様の精神力が特殊だったからだ。つまり、ロリでエロいことを思う力が強すぎたのだ、このエロリ勇者」


「エージ様はエロリ勇者なのか?」


「ち、違うぞ、エリザ! おい、マリジューレ!」



「では、もう一度!」



 マリジューレの背中に隠してあった幻覚草が俺の前で大量の花粉を舞い散らす――



「おまっ、いつの間に」



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