旅立ち12

 



「そっちかい」と突っ込む間も無く、俺の目の前でそのいきり立つシンボルを惜しげもなく見せつけているピンク髪、振り下ろした剣は俺の髪をかすめた。巾着を手に転がるように湯船を出る。



「な、何なんだよ」


「私達と付き合ってくれるのよね」


「いや、俺そっち系の趣味は無くって」


「一回経験してみたら、やみつきになるわよ」



 湯船のお湯が数十本の矢のように変化して俺をめがけて飛んでくる。前を隠している暇は無い、間一髪、避けられた俺は出口へ向かって走る。



「待てよ、勇者」



 白い歯とポニーテールの武闘家に一瞬で間合いを詰められる、肩を組まれた後、腹に一撃。うずくまる俺の顎にピンク髪の持つ剣が突き付けられる。



「待ってよ」


「だから何なんだよ」


「何って、分からない?」


「分からないよ、急にこんな......」



 魔法使いがゆっくりと歩いて来る。



「魔王親衛隊、よ」



 ピンク髪の剣先に乗せた顎を押し上げられる。



「じゃあ、あの一緒にいた女の子達も仲間なんだ?」



 出口まではあと数歩、逃げなければ、どうすれば......右手に持った巾着袋に気がつく、やむ終えない、俺は息を止め時の粉じんHを振りまいた。



「うわっ、何これ――」



 その声を最後に、ピンク髪達の動きが止まる。

 ――助かった。


 静まり返る空間、俺は走って脱衣所を駆け抜ける。真っ裸だったが命には変えられない、【男】と書いてある二つに割れた大きな暖簾のれんの間から光が見える、その間をくぐろうと手を伸ばす。



「はぁ、のぼせてしまうところだったぞ」


「そ、そうですね姫様」



 マリジューレとエリザの声だ、粉じんHを吸い込んでいない彼女達が、外の廊下を通り過ぎたのが見えた。



「エリザ、マリジューレ!」



「チェーン......バインドッ」


「なっ」



 声のある方に振り返ると半透明の鎖が地面から生え、俺を締め上げていた。その先には重そうな胸を揺らせながら歩いて来る金髪の聖職者だ。


 粉じんを吸い込んでいなかったのか、聖職者だけが動けていた。



「逃げろエリザ、マリジュ――」


「あっ、近くに仲間がいるんだ?」



 聖職者の手で口を塞がれる。密着する胸と男子を感じる硬い物が俺の背中と尻を圧迫する。



「エージ様の声......」


「勇者、貴様ー!」



 マリジューレが俺に一撃浴びせんとばかりに走って来る音が聞こえる。その後にもう一つの足音、エリザがついて来ている。



「どうしたのだ?」



(来るな、殺される)


 口を塞がれ、声が出ない。



「私のような聖職者でも、攻撃魔法の一つも使えるんですよ」


 突如赤い鎖が地面から浮き出ると、ベビのようにとぐろを巻く。



「ヒートチェーン、体の内部へ侵入し、毒のようにじわじわと、息の根を止めるまで治らない魔法」



 俺の背中に体重がかかる、背後から抱きつくように柔らかい胸が更に押し付けられる。



「一緒に見てよーね」



 微笑む聖職者の腕が上がる。ヒートチェーンもその動きに合わせて、暖簾が開くのを待っている。



「そこにいるのか、勇者!」


「待て、マリジューレ」



 暖簾が大きく浮かび上がる、それと同時に聖職者のヒートチェーンは一直線に飛びかかった。



「エージさ――がふっ」



 突然の攻撃に驚く間も無く目を見開く。暖簾を上げたのはエリザだった。



「姫様!」


「ごぼっ、ゲボッ、先程は、ごぶっ、ご、ごめんな、さい、ぼぇっ」



 涙目になりながら、小さな口が裂けそうなほど太いチェーンが、よだれと一緒にズボズボと口の中に入っていく。



「姫様ぁ? ああ、あなたが単身、魔王様までたどり着いた身の程知らずの姫騎士ぃ?」



 倒れるエリザに顔を近づける聖職者、それと同時に俺のバインドが解ける。

 聖職者を見ると既にマリジューレのバインドで動けなくされていた。



「勇者おまっ、そっち系の趣味があったのか!?」


「ち、違うんだよ、マリジューレ」



 睨むようにマリジューレを見る聖職者、奥歯を噛み締めている。



「まあどちらでもいい、今は姫様をなんとかしなければ」



 涙を流しながら喉を押さえて嗚咽を繰り返すエリザ、その口からは唾とよだれが垂れ流れる。



「おい、男女おとこおんな、早くなんとかしろ!」


「ふっ、こうなると私にもどうしようも出来ないのよ」


「ではその魔法をかけた本人を消すまでだな」



 無数の風の矢が浮かび上がる。



「アハッ、お疲れ様でしたー」



 バインドを強制解除させた聖職者は笑顔で転移魔法を唱え、一瞬でパーティ全員と共に姿を消した。



「た、助かった――」


「た、助かった。じゃねえよバカ! 姫様が!」



 嗚咽を繰り返していたエリザが、今はキョトンとしている。



「ん? どうしたのだ?」


「姫様!」


「よかったー、エリザ!」


「前、エージ様」



 自分が真っ裸だということに気がつく、慌てて両手で前を隠す。



「姫様、お体は大丈夫なのですか?」


「ええ、今はもうなんともないぞ」


「良かったー」



 エリザに抱きつこうと手を広げた瞬間、また前がガラ空きになる。

 突然、後頭部に強烈な痛みが襲う。



「汚いモノを見せるな、下民」



 どうやらかかと落としを食らったようだ。顔面から地面に落ちる。後頭部を踏み付けられたまま、バタバタと両腕を動かす。何かが手に当たる、無意識にその布を掴み一気に引き寄せる。



「なっ!」



 急に頭が軽くなる、顔を上げると、小さな赤いリボンがワンポイントにあしらわれたオーソドックスな純白のそれが目に飛び込んだ。



「げ、下民がぁー」



 ズボンを上げながら俺を睨むマリジューレ。



「ち、違う、わざとじゃないんだ」


「おおー、今日はウサギさんだな、かわゆいぞ」



 彼女のパンツの後ろにはどうやらウサギのプリントが施されてあったようだ。



「ひ、姫様......」



 赤くなるマリジューレのズボンを上げる仕草が止まった。

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