旅立ち10



「やっと帰って来れたな」


「はい、姫様」



 街まで帰って来たのは夕方だった。俺の傷はエリザの命令という形で渋々ながらマリジューレがヒールしてくれた。



「あ、俺ちょっと寄る場所あるから、先行って宿取っといてくれ」


「寄る場所、ですか?」


「ああ、直ぐに追いつくから」



 俺は一人別行動にて、古びた小屋の前まできた。弾む心、木製のドアを勢いよく開けた。



「おい、爺さん約束通りジャイアントアントを倒して来たぞ、レアアイテムを貰おうか」


「おおー、勇者様。これはこれはお早いお帰りで、で、倒したという証拠は?」


「し、証拠?」


「ええ、倒したという証拠が無ければ渡せませんよ」



「――証拠ならあるぞ」



 小瓶に入ったジャイアントアントをカウンターに置くのはマリジューレだった。



「おお、これが」


「は、早く操作薬を出せ」


「マ、マリジューレ?」



 カウンターが音と共に並べてあるアクセサリー達が揺れる。マリジューレの息遣いが荒くなる、まるで強盗のような勢いで爺さんに迫っていた。



「わ、わかりました、そ、操作薬でよろしいのですね」

 

「俺は粉じんだ、時の粉じんHをくれ」


「すみません、渡せるものは一つのみです、次回また依頼ができましたら報酬としてお渡しします」


「な、なんだそれは!」



 マリジューレと顔を見合わせた、同時に声が出た。



「「では」」


「操作薬だ!」


「粉じんHだ!」




 ***




 日が沈む街を歩く俺の頭の中はレアアイテムの事しか無かった。



「エージ様、なぜそんなにニヤニヤしているのですか」


「え、そうか? そんなことないよ」


「いいえ、マリジューレも、二人ともニヤニヤしています」


「ま、まあ皆んな無事だったから良かったということですよ姫様」


「そ、そうなのか、ならば良いのだが」


「あ、ありましたよ、宿屋」



 煌びやかに飾る入り口を進むと、大きなカウンターがあった。



「チェックインお願いします」


「はい、ありがとうございます。お客様ラッキーですね、ラスト一部屋でございましたよ」



 帳簿を開き書き込む従業員、



「アハハ、それはよかっ......」



 !?



 一部屋!?





「おい店員」


「はい」


「二部屋用意しろ」


「いや、申し訳ありません、もう空室が残っていませんので......」


「この方を誰だとお思いか」


「マリジューレ、よいのだ」



 納得のいかない顔で背中を向けるマリジューレ。



「すっいませーん」



 緊迫した空気の中、突如大きな声が後ろから聞こえたと思うと、俺の真横に倒れるようにカウンターへダイブして来た。

 驚きながら体をずらし見たその横顔は、土と汗が混ざっていた。ハアハアと息を切らしている彼女の全身をよく見るとボロボロになった装備とボサボサのピンク色の髪、歳はエリザと同じくらいの女騎士だ。



「あ、あの......」



 その勢いで呆気に取られる俺達、追い討ちをかけるようにバタバタと三人の女子が一人目に被さるようにカウンターへ押しかけた。



「ねー、ダメなの?」


「ん早くお風呂入りたぁいぃ」


「早く早くぅ」



 聖職者、魔法使い、武闘家、騎士、という四人組という全員女子の冒険者達だ、その身なりからはかなりの苦戦を強いられた後のように見える。



「も、申し訳ありません、このお客様で満室となりました」


「「ええー!!」」



 驚きを隠せない四人組、なんだか悪いことをしているような気になってしまう。



「あのー、相部屋とかって、だめですか」


「「だめですか」」



 八つの潤んだ瞳が俺を突き刺す、



「あ、いや」


「だめ......ですか」



 リーダー格とも思えるピンク髪の子が俺の手を握り、顔を近づける。女子とは思えないほどゴツゴツとした手、よほど剣の素振りをして来たのだろう、汗ばむ顔はかわいそうなほどに薄汚れている。



 ......


 ............



 エリザとマリジューレを見る。


 小さく首を振る二人、


 手を引かれてピンク髪の彼女の方を振り向く。



「誰が好みですか......?」



 小声で耳打ちされると「んふ」と微笑む四人。


 元気いっぱいというのが溢れて見えるピンク髪の騎士。

 清楚な感じがとても印象がよく、胸の膨よかな聖職者。

 とても大人っぽい感じの魔法使いは、妖艶な笑顔を浮かべる。

 強気に見える筋肉美の巨乳武闘家は、乱れる姿を想像するだけで理性を奪われそうだ。



「全員と......でも、いいですよ」



 甘い口調と優しく耳を撫でる吐息、俺は相部屋を承諾した――――



 エリザとマリジューレの舌打ちする音が聞こえる。




 ***




「じゃ、私達はこっちの部屋で寝ますので」



 そう言うと四人組はピシャリと障子を閉めた。キャイキャイと、四人組の声が聞こえてくる、それは女子高生グループが、はしゃいでいるようだった。



「エージ様」



 エリザが腕を組む、マリジューレは俺を睨む。



「あの」


「あのではない、貴様、身分をわきまえろ」


「いや、彼女達はほら、かなり疲れてたっぽいからさ、それにあの子の手、かなり苦労してると思う」


「......お優しいのですね、エージ様は! だ、れ、に、で、も!!」



 立ち上がるとそのまま部屋を出る、並んで二部屋ある間取りは、どちらの部屋からでも玄関に出ることができる。



「姫様、どこへ?」


「お風呂!」


「では、私も」



 慌ててエリザの後に続くマリジューレ、部屋を出る前に一瞬、俺と目が合う。



「じゃ、じゃあ俺も行こうかな」



 一呼吸置いて部屋を出る。手には小さな巾着袋の中に入った時の粉じんHを握りしめている。



 小屋でマリジューレを説得できるとは思わなかった。



 ***



「操作薬だ! 黙って操作薬を持って来ればいいんだよ! 爺さん」



 興奮が止まないマリジューレの必死さは、エリザへ対する真剣なエロさを感じる。



「マリジューレ、お前エリザにエロいことしようと思ってないか?」


「な、何を」


「図星だろ」


「ち、違う、今後のモンスターとの戦いの為だ、お前こそ、姫様に卑猥なことをしようと考えておるのだろう」


「な、何だと」


「す、図星ではないのか?」



 脂汗が湧く「何を、何を」と、言い合いはその後も何度も続いた。



「まあまあ、それが、人間の性ってものでしょうねぇ、ヒヒヒ」



 取っ組み合いにまで発展した俺達に割って入る爺さんの言葉に、動きが止まる。



「粉じんを吸わなければよろしいのでは?」



 ......



「そうか!」



 マリジューレは粉じんHを奪い取るようにひったくると、俺に手渡した。



「いいか、使う場所は風呂だからな、この街の風呂は露天風呂がある、そこで私の合図てその粉じんHを女子風呂に向けて撒け、わかったか!」



 その必死さに引いてしまうほどだ。



「お前、必死すぎじゃね?」


「う、うるさい!!」



 ***




「あのー、私達もご一緒していいですかー」



 ピンク髪の子が笑顔で顔を出す。慌てて巾着袋を後ろに隠す。



「え? あ、うん」


「ダメって言っても行きますけどねー」



 ドタドタと残りの三人が後ろから走って出てくる。



「お先にー」


「あ、ちょっとー」



 彼女も廊下を走って行った――




 好機到来!!



 さあ、はじめようか......

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