旅立ち9

 


 ――――



「あれ?」


「え、エージ様ぁ」


「――さあ、おいでエリザ」



 上半身を起こし壁に背をついたまま、俺はエンディングを迎えた主人公のように両手を広げて言ってみた。


 子供のように駆け寄ってくるエリザ、上半身の正面が全て破かれ、胸の谷間が露わになっている。

 俺に抱きつこうと両手を広げてダイブして来るその姿は、ヒラリと破けた服がめくれて俺の顔めがけて一直線だった。


 負けた姫騎士もまた、萌えだ。さあ来い、土に塗れた巨乳よ! その全てを受け止めようではないか。



「ウインドバリア、ヒールオール」



 エリザが光に包まれる、飛び込んで来た状態から、俺の目の前で、空気の塊にバウンドするようにふわりと跳ね返り立った状態になる。


 エリザの制服戦闘服は元の状態に戻り、目を丸くしたまま、何が起こったのかわからない様子だった。



「おぃ、貴様」


「あ、マリジューレ」



 穂先を俺に向けて立つマリジューレ。



「おお、マリジューレ、もう大丈夫なのか?」


「はい、ありがとうございます、姫様」


「またしても、助けられたな」


「......はっ」



「して、なぜ一瞬で倒せたのだ?」


「......恐らくはこれでございましょう」



 マリジューレは剣を持つ俺の手を槍で除けると、小さな蟻が潰れていた。ピクピクと足を動かす蟻。正に虫の息の蟻、彼女はそれを小瓶に入れて持ち帰れるようにした、倒したという証拠のためだ。



「これが、ジャイアントアントの正体、私達はこの蟻の出す幻影と戦っていたのです」


「どうりで数が多いと思ったのだ。さすがエージ様、初めから分かってたのですね」


「あ、いや」



 エリザが飛び付いて来た、横顔に胸が当たり、押し付けられると、耳元で囁かれる。



「すこしなら、触って頂いても良いですよ」


「なっ?」



 目の前でリボンを緩め、胸元を人差し指で大きく開くエリザ「では」と、遠慮なく手を伸ばしエリザの胸元に滑り込む、頬を染め、目を瞑り下唇を噛むエリザに興奮する。


 むわんと、蒸れた胸元から手のひらに温もりを感じる、その感触まであと少しだった。



 ――エア、バインド



 体が動かなくなる。



「ったく、助けてもらうところまではいいのですがね......」



 髪を掴まれ顔を上げられる。感触を待ちわびていた俺の右手首を掴み壁へ叩きつける、持つ槍を回転させ、刃とは逆側、つまり槍の石突きで一突き、俺の右手のひらに突き刺さる。



「痛えええ!」



 その声でエリザは目を開いた。



「な、何をしておるのだ! マリジューレ」


「姫様の柔肌にこの様な奴の汚いてが触れようとしていたので」


「よ、よいのだ、私がよいと言ったのだ!」


「ひ、姫様、いけません! そんな下品な」


「お、お前とて、私の胸を揉んだではないか、私を変な気持ちにまでさせておいて」


「そ、それは」



 槍を引くと、バインドが解け、俺の手は丸く窪んでいる。骨が折れているのだと思う。手を抱えてうずくまる。



「痛ってー」


「マリジューレ!」


「も、申し訳ありません......姫様」


「早くヒールをして差し上げよ」



 ふわりと体が温まる。

 奥歯を噛み締めているマリジューレの顔が気になるが、体の痛みは引いた。



「命の恩を、仇で返すなんて......」


「何か言ったか?」


「いや、ありがとう」


「そうか」



 槍を手に持ち壁にかけていた松明を持った。

 俺も落ちた剣を拾い、背中に戻そうと振り上げた瞬間、マリジューレのスカートが俺の剣に引っかかり、避けるようにメイド服が破れ、スカートがストンと下に落ちた。



「え?」


「あ、熊......」


「おおっ、熊さん! 可愛いぞマリジューレ」



 その瞬間、俺の視界は見えなくなった、代わりに今まで味わったことのない痛みが、両目から伝わった。


 痛くて目が開けられない、暗闇の中で声だけが聞こえる。



「ま、マリジューレ何をしておる、早くヒールを」


「よいのです、姫様、彼はこれくらいが丁度いいのです」


「何を言っておる、この出血量ではいくら無敵の勇者様とて、死んでしまうぞ!」


「いえ、死にはしませんでしょう」


「いや、でもこれは尋常ではないぞ、見ろ、この量、まるでダムの決壊ではないか、なぜこんなに血が出るのだ!」


「行きましょう姫様、勇者様は無敵です、死にません」


「いや、でも」


「早くこんな場所から出ましょう、姫様には似合いません」



 二つの足音が動き出す――



「マ、マリジューレっ頼む、ヒールしてくれ」


「貴様にはヒールせん」


「そ、そんなぁ、頼むよ、頼みます、お願いですからヒールを」


「あっ、この草でも巻いていればいいでしょう」


「本当によいのか、こんな雑草のようなもの」


「いいのです、いいのです」


「薬草とは少し違うように見えるのだが」


「いいのです」



 荒削りに訳のわからない草を目に擦り込まれ、布を巻かれた。


 俺はこの後どうすればいいんだよ――――


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