旅立ち6

 




「好きな相手と、おパンツは密接した関係にある」



 如何にも名言を言っているかのように腕を組んで人差し指を立てて語る。



「なんだそれ?」


「お母様からの、教えですわ」


「お、お母様ぁ?」


「ええ、お母様も若い頃にはその言葉通りに従ったと、なぁマリジューレ」



 さも当然の様にマリジューレを見ながら同意を求めるエリザ。


 しかしあの王妃様のおパンツとやらも、興味が無いと言うと嘘になる。どれほどエロいのだろうかと、見ようによっては良いものにもなるかもしれない。



「は、いぇ......」



 返答に困りながらも、力無い返事をするマリジューレ。



「なんだ、なんだ? 何を恥ずかしがっておる、好きな相手をものにしたければ、可愛いと思わせるおパンツを身につけるようにと、お母様も言っておったであろう?」


「いや、ですが姫様、下着は普段見せないものでして」


「だからだ! 分かっておらんのぉ、いつ、何時なんどき、見せなければならない。そういう自体が来るやもしれんのだぞ、だからおパンツには普段から気を使わなければならんのだ。もしや......おぬしは、【ばーじん】というものではなのではないのか?」



「ヒヒヒ」と、エリザは目を細めて意地悪な笑いを浮かべる。



「違っ......いますが」



 勢いあまって叫びそうになるマリジューレが、間一髪のところで留まった。



「何、違うのか!」



 エリザの目が見開く。



「じゃあ男性と......そのなんだ、何かしたことがあるのか!?」


「それは、二十七年ですから、何度も......」


「な、何度も!?」


「はい、何度も」


「な、何度......そ、そそれはどんなだ、どうするのだ? 気持ちいいと聞くが、痛いとも聞く、どちらだ?」



 マリジューレの胸ぐらを掴み言いよるエリザ。「どうする、どうやるのだ」と、マリジューレの手を自分の胸に押し当て、強引に揉ませている。



「や、めてください。姫様」


「なぜだ?」


「そんなに乱暴ではダメです。始める時はもっとムードというものを作らなければなりません」


「ムード?」


「はい、お互いが、その......エッチな気分になるような感じを作るのです」


「どうやって? 誰が?」


「ハイ! 今日はここまでです。エージ様が見ておられますよ、性教育は女だけでやると、王妃様も言っておられましたよね」


「そ、そうだな、すまんマリジューレ」


「いえ......」



 エリザが振り返り、マリジューレに背を向ける。彼女はさっきまで姫様の柔らかな胸を揉みしだいていた自分の手を見つめ、何度も感触を思い出すように指を動かしていた。


 えへへと笑うその顔は緩みっぱなしで、情け無い。まるでスケベ親父のようだ。



「人のこと言えんのかよ、変態」



 俺の言葉に、彼女は我に返ったようだった。



「し、知らん! 殺されたいか下民! 先を急ぐぞ」



 マリジューレは、小走りで離れてしまったエリザに追いついた。俺もそれに続いた。





 ***





「ところでさ、さっきの街の大男も言ってたが、魔王退治の冒険者って、俺達以外にも他にいるのか?」


「あぁ、私達が旅立った後、お父様が御触れを出したようです」


「そうか、だったら討伐はその人達に任せてもいいんじゃねーか?」


「いいのですが、そうすれば私はその討伐した者の妃になってしまい......ます」



 語尾に詰まったようだった。突然曇った表情で俯くエリザ。

 その姿にどういうわけか、胸が締め付けられるように痛かった。



「なんで!?」



 咄嗟に出た大声は驚きよりも寧ろ、エリザの表情を変えたかったからだったと思う。



「お父様が、そう御触れを出されたからですわ、次こそは自分の娘に何かあっては困ると」


「そんな、勝手に」


「募った冒険者の数からして、私と結婚を望む人は多いでしょう。いずれ国王にもなれますからね、何不自由ない生活を送ることができるのですから、王族に生まれた以上、夢はあっても、愛だのといった自分本意の恋愛は禁止なのです」


「じゃあお前、もし討伐した奴が下品ですげーキモい奴でも、結婚するのか」


「はい、どんなキモオタであろうと、変態ハゲオヤジであろうと、私に選択権はありません、喜んで結婚......するだけ......ですわ」



 再び語尾に詰まる、顔の中央にシワがより始め、泣きそうになりながら、口角は上がっていた。

 胸がさっきよりも更に痛い――



「エリザ......俺を誰だと思っている」


「え?」



 溢れそうな涙を浮かべながら俺の目を見る。



「無敵のスキルを持つ、伝説の勇者様だぞ! 誰にも負ける訳がなかろう!」



 「ハッハッハッ」と、声高らかに笑いあげると、エリザの表情がパァっと明るくなった。同時に胸の痛みから解放された。



「そ、そうでした! そうですよね、エージ様! エージ様が負ける訳ありませんわ」



 子供のように俺に抱きついてくるエリザ、ぎゅうぎゅうとよく発達した胸が押し付けられる。

 目の前で顔を上げて俺を見つめた彼女の頬が赤く染まっていく。



「エージ様、す......す、す」



 何が言いたいのかは直ぐに分かった。恥じらうのは本気で言おうと思っているからなのだろう。


 中学生だった俺にも経験がある、その時は告白ゲームとか言って周りから囃し立てられ、クラスの一番ブスな子に遊び半分で告白をするというものだった。サラリと告白した後、ネタバラシがされて、泣きながら帰った彼女は、その後一週間学校に来なかった。遊びとはいえ、人の心をオモチャのように扱ったことを今でも後悔している。



「分かってるよ、エリザ」



 優しく頭を撫でると、彼女の頭は俺の胸板にくっついた。



「......エージ様」


「ん?」




「......おパンツ、見ます?」



「な!?」




 背中に槍先が当たっているのが、確認できた――




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