旅立ち5




「エージさぁーまぁ!」



 エリザの怒りに満ち溢れた声、俺を見ながら歩いて来る、ヤバい、どうする。



「おい、兄ちゃん......俺も男だ。気持ちは分かるが――」



 大男がエリザと俺の間に入り、今一度俺を殴ろうと拳を鳴らしている。



「邪魔!」



 一瞬の出来事で何が起こったのか分からない、大男が崩れるように地面に倒れる。

 エリザが拳を振りながら更に俺に近づく、気を失ったあの大男の脇腹が小さな拳の形に抉れている。


 ヤバい、これは逃げなければ俺もあんな風になるに違いない。全力で走れば逃げきれなくはない、というより逃げなければ何をされるか分からない。


 幸い回復ポーションのおかげで体力は全開だ、振り返り踏み出す足に全力を注ぎ込む、



「うりゃ――」





 逃げようとした所までは良かった。


 なぜ気がつかなかったのか、彼女の存在に――――



 ふわりとしたエアバックのような感触、俺はその暖かい二つのエアバックに全力で顔を突っ込んでいた。



「死刑、確定だな......下民、いや変態」


「あ......」



 顔を上げると、凍りつきそうな、蔑むような目で俺を見下ろすマリジューレの姿があった。



「マ、マリ......い、いつの間に......」


「エージ様!」



 後ろからはエリザが直ぐそばまで迫っていた、もう逃げられない、



 笑顔――


 こういう時の防御反応というものだろうか、それとも俺の営業マンとしての癖なのだろうか、マリジューレとエリザを交互に見ながら口角を上げる。



「何をヘラヘラしている......」



 マリジューレの軽蔑した口調に俺の防御反応の無意味さを知らしめられる。



「まずはそのアホそうな目を抉り出してやろう」


「あ......うぐっ」



 マリジューレの左腕が俺の後頭部を押さえつける。無論、俺の顔は両胸の間に挟まれ左右に弾力を感じる。

 右腕を振り上げ人差し指を立てて俺の目をめがけてゆっくりと近づけてくる。


 風がまとい始め、マリジューレの人差し指が近づくにつれて、目が乾く――

 バタバタと体を動かし逃げようとするがマリジューレは俺を押さえて離さない、その力の強さで胸に押し付けられるものだから、無限の弾力ループだ。



「う、嘘だろマリジューレ」



 半ばヤケクソだ。俺はその弾力だけを感じようとわざと胸の間で顔を動かしまくった。



「あ......」



 一瞬、声にならないような吐息交じりに聞こえる、少し切なそうな表情、これは......



「貴様......殺す!」



 一瞬逃げれると思ったのもつかの間、その表情は鬼のように変化して、呪文を唱え出す。



「これ、マリジューレ!」



 エリザの手がマリジューレの肩を押す。


 その勢いで、マリジューレの呪文は止まり、指からも風が消えた。



「エージ様から離れなさい!」


「も、申し訳ありません姫様っ」



 マリジューレを睨みつけるエリザ、慌てて腕を離し、俺をエリザの前へ突き飛ばす。



「エージ様に、胸をぎゅうぎゅうと押し付けて......」


「ち、違うのです姫様! こ、これは」


「もしやお前、エージ様のことを?」


「ち、違います。断じてそんなことはございません」


「そうか? まあよい」




 目の前までエリザがせまる、グッと顔を近づけて眉間に皺をよせる。



「エージ様!」



 もうダメだ、次はエリザだ、こんな怖い表情は初めて見た。殴られる。俺よりも明らかに強い彼女に――







「なぜ私のだけで満足できないのですか!!」



 ............



「......え?」


「んもうっ、これでしょ!」



 エリザは自分でスカートをめくり上げ腰を前に突き出す。その姿に驚愕した。



「姫様!」



 慌ててマリジューレが止めに入ろうとするが、俺がサッカーのディフェンスをしているような形になってしまい、直ぐには近づけない。



「だめ? どうがいい? 白、嫌いだった? もっとエッチな顔しなきゃだめ? 教えてエージ様」


「あ、いや」


「姫様!!」



 マリジューレが俺とエリザの間に割って入り、体を張って視界を防ぐ。



「おやめください、姫様」


「どきなさい!マリジューレ!エージ様は私だけのものになってほしいのです、だからおパンツを......」



 ......


 ............



 両手を広げているマリジューレの動きが止まる、力無くその手が下ろされる。



「ど、どうしたのだ、マリジューレ?」



 突然心配そうな声を出したエリザ、マリジューレの肩が小さく震える。泣いている様にも見えた。



「少しお待ちを、姫様」



 次の瞬間、マリジューレが振り返り勢いよく俺の肩に腕を絡めて顔を寄せてくる。



「おい、レアアイテムとやらに飲んだ者を操作できる薬があったよな?」



 エリザに聞こえないような小さな声、中学生の時に絡まれた不良達を思い出させる。



「え、あ、はい、あったと思います」


「よし」



 マリジューレは再度振り返り、スカートの裾を持つエリザの手を払ってから自分の腰に両手を当て仁王立ちになる。



「洞窟にジャイアントアントを討伐に行きましょう!」


「マ、マリジューレ?」



 突然の変化についていけてないエリザはキョトンとした表情だ。

 どういう心境の変化だろう、どちらにしろレアアイテムが手に入るのならば、俺もマリジューレには賛成だ。


 だが、次はしっかりと君の下着観測もさせて頂くことを、否、下着の下の観測もさせて頂くことを忘れるなよ、



「なっ、熊ちゃん」



 気がついた時にはもう遅かった。テンションが上がり過ぎて思ったことを声に出してしまった。



 仁王立ちのまま、マリジューレの顔が一気に真っ赤になる。



「違う! アレは、あのパンツはちょっとアレしていただけで、別にいつも熊の柄というわけではない!」


「え? マリジューレは熊さんのおパンツなのか?」


「いや、姫様、それは」


「どれ、見せてみよ」


「あっ、嫌」



 フリルがあしらわれたメイド戦闘服のスカートをゆっくりとめくり上げるエリザ、自分の手を当てエリザの行為を拒むが、その手には力が入っているようには見えない。


 真っ赤な顔のまま、目線は斜め下を向いていた。

 ただ、なされるがままに手を添えるだけのマリジューレ。




「あー、可愛いではないか!」


「姫......様」



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