旅立ち4



「おー、ピンク」


 次から次へとスカート覗きを楽しむ俺、お淑やかそうな子が黒いTバックだったり、ピンクの可愛いやつだったりと、喜びと驚きは隠しきれない、一通りパンツを見終わった後、ついでに胸の大きさのチェックもしておこうと、黒いTバックの子の胸に手を当てようとした瞬間、



「お気に入りのようですねぇ、ヒッヒッヒ」



 突然の声に肩を竦めて声のあった方へ振り向く。


 そこには一人の爺さんが気持ちの悪い笑顔で立っていた。短い杖をついている、ギラギラとした趣味の悪いジャケットを着た小柄な体型、小さな丸いサングラスが胡散臭さを更に増していた。


 誰? 死神? 天使......でないことを、祈ります。


 咳払いをされる、それもそのはずだ、中腰の姿勢で両手を前にいる女性の胸の位置に持っていったまま、お椀を包み込むように指を曲げている、なんとも情け無い格好だ。



「貴方は何か勘違いをしていますね、貴方は死んでなんかいませんよ」


「え?」


「正確には、死にそうになった貴方を、私のレアアイテムでお助けした、ということです」



 それが本当ならば命の恩人ということか、慌てて体制を立て直す。



「目の前で死人が出るのを見ていられませんでしてねえ......今起こっている不思議に思われるこの現象は、粉じんです」


「粉じん?」


「ええ、時の粉じん、振りまくとそのちりを吸い込んだ者は動きが止まる、時間が止まっているから痛みも止まっている、というアイテムです」


「マジか! そんな夢のようなアイテムがこの世界にはあるのか!」



 爺さんの側へ駆け寄り膝をついて立つと、目線が同じ高さになる。



「ほ、他にもあるのか? そんな夢のアイテム」


「ええ、ありますよ。姿を見えなくする透明薬。飲ませた者を自由に操る事のできる操作薬。まぁその他沢山」


「な、何なんスかあー!!」



 感激のあまり叫んでしまった、夢が叶う魔法のアイテム。この爺さんは俺の欲しいアイテム、というよりも、俺の夢を持っている。



「くれ! 売って下さい! そのアイテム」



 爺さんの肩を持ち前後に揺らすと、首をカクンカクンと千切れそうになる。



「ま、待って下さい、待って下さい」



 必死に俺の肩に手を当てて爺さんは抵抗する。その焦りように俺の手が止まると、そこから一歩下がりジャケットを正す。



「レアアイテムは、魔物を倒す為の補助として作られたアイテム、使用方法を守って頂かなければ――」


「お、おお、分かってるって」



 ゆっくりとした爺さんの口調に俺の逸る言葉が被さる。



「そうですか......では、条件があります」


「何だ? 金か? 宝石か?」


「いえ、魔物です」


「は?」


「この先にある洞窟に【ジャイアントアント】という魔物が住み着きましてな、レアアイテムを作る為の素材が採取出来なくなっており困っています。それを倒して来て下さい、そうすれば、レアアイテムをお譲りしましょう」



 魔物という単語で力が抜ける。俺にはそんな強そうなモンスターを倒せる力を持っていない「そうか」と、力なく返事をすると爺さんの表情も強張る。



「先程から思っておりましたが、そのむっつりすけべ様と、持たれている剣。もしや貴方様は異世界から来られた勇者様では?」


「あ、いや、はい」



 異世界から来たというところまでは合っているが勇者ではない、



「やはり、私の目に狂いは無かった」



 いや、若干の狂いはあると思うのだが......


 惜しいがレアアイテムを命をかけてまで手に入れようとは思えない。俺だけでどうのこうの出来る話ではない、ましてやこんな俺の欲望の為だけに彼女たちを動かすのは心が痛む。不本意だがここは諦めるしかない。

 ここはひとつ、営業のテクニックで、



「分かりました、前向きに検討致します」


「ありがとうございます、勇者様ならきっと引き受けてくれると思ってました、これはほんの気持ちです」



 作り笑顔で答える俺に対して、真剣に安堵の表情を浮かべる爺さんが、小さな瓶を手渡してきた。

 ちょうど栄養ドリンクと同じくらいの半透明な小瓶の中には黄色い液体が入っている。



「間も無く粉じんの効力が消えます、その時には腕の痛みも戻るでしょう、その前にその回復ポーションをお飲み下さい」


「おお、なるほど、あ、ありがとうございます」



 蓋を開け、一気に喉へ流し込んだ。



「ちなみにこの時の粉じん、止まっている人の目は見えていて、耳も聞こえていますし、意識もしっかりある状態ですので、あしからず」


「え? マジで......」



 俺の一部始終は、全て見られていながら行っていたということか、全身の血の気が引く気がした。



「はい、時の粉じんH《ハイパー》ならば、完全に時を止めることが出来ますが、このノーマル粉じんでは、目は見えています」


「初めからそのHを使ってくれよー!」


「使用方法は魔物を倒す為の補助、と言いましたよね?」


「いや、でもさ、この状況、男なら誰でもこうなるだろっ?」


「街の外れにある古屋でお待ちしております」



 爺さんが内ポケットから小さく折られたマントを取り出すと頭から被った。

 その瞬間、彼の姿は消えて無くなり、ガシャーンと、俺を殴る為に振り上げた大男の拳が地面を叩く音が鳴り響いた。




 同時に所々で女の子達のすすり泣く声が聞こえてきた――





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます