旅立ち


 体を吹き抜ける風が心地いい、結局俺の装備は異世界の生地で出来た服と肩から掛ける剣一本だけになった。



「エージ様は無敵だから、私達の防具も軽装でよかったよねー」


「ハイ、姫様」


「......あ、いやぁ」



 いやにハイテンションのエリザは手を振り、大げさなまでに行進しながら前を歩く。隣のマリジューレがその一部始終を見ながら一定のトーンで話してくる。



「姫様が心配だったから、着いて来たのだ、悪いか」


「あ、いや、悪いとかじゃないんだけど」


「じゃあ何だ、さっきからずっと煮え切らない顔をしているのは」



 怖いほどに威圧感がある。ここは誤魔化して自分を勇者だと言い切る、嘘もつき通せば嘘ではなくなる。



「あの、マリジューレ、俺は本当は......」




「あー!!」


「急に何だよ、エリザ」



 緊迫した空気を裂くほどの声、エリザが少し先を指差して笑う。

 指の先には半透明なドロッとした塊があった。バスケットボールくらいの大きさのソレは、恐らく異世界定番モンスター、スライムだろう。



「スッライム、スッライム、弱っちなー」



 やはりスライムだ。エリザがスキップしながら剣に手をかける。スライムはベターっと体を縮めて今にも飛びかかりそうだ。

 よく見るとスライムはエリザの両脇にも一体ずつ居るではないか、そのスライムは今にもエリザに飛びかかりそうだ。



「エリザ!」



 俺の声と同時に三匹のスライムはエリザめがけて一斉に飛びかかった。



 が......




 次の瞬間、剣を抜いたエリザは回転する。



「えーっい!」



 剣を突き出しぐるりと一回り。


 スライムは三匹とも真っ二つに裂かれて地面に落ちる。



「ハイ! 何ですか、エージ様」


「あ、いや......何でもない」



 よく考えれば彼女は一人で魔王までたどり着いた強者、こんな序盤のモンスターごときにやられる訳がない。焦った自分が恥ずかしかった。


 ............



 沈黙の後、だんだんとエリザの頬が膨らんでくるのが分かる。



「何ですか、エージ様、先程私を呼びましたよね、隠し事はいけませんよ」



 エリザが一歩、二歩と大股で歩く。三歩目だった、さっき切り落としたスライムを踏みつけてしまったようだ。



「キャッ」


「姫様!」



 スライムは天高く弧を描くように舞い上がり、エリザは綺麗に尻餅をついた。

 両膝が山なりに曲がり、短いスカートはフルオープン。



「白......かぁ」



 反射的に目がいく。パンチラは常日頃から目に焼き付けるようにと、変態魂に火がついてしまう。



「いっっつつつ」



 M字に開く脚、白い布越しに見えるエリザの顔は痛みで歪んでいたが、それも萌え要素だった。ここは彼女が気づくまでゆっくりと姫騎士のパンチラ、いや、パンモロとやらを堪能しようではないか――





 風邪を切る刃の音が聞こえる。次の瞬間、自分の目が反射した槍先に映る。

「ひっ」と、声にならないような声で固まる。鼻息で刃が曇るほどだ。



「何を見ている、下民......」


「あ、いや......大丈夫かな、と」


「違う、その顔は姫様のパンモロを覗いていたな」


「いっ? ち、違います違います」


「本当か? もし見ていたとなれば私がこの場で殺すからな」


「あ......はい」



 マリジューレはそう言うとエリザの所へ向かった。



「姫様、お怪我は?」



 彼女はエリザのスカートを股の間で抑えてパンモロを見えなくする。



「ああ、んもうよいよい」



 マリジューレの仕草を嫌がりながらエリザが立ち上がろうとした瞬間。両腕を何かに引っ張っられたように地面から起き上がれない。



「アレッ?」



 エリザが目線を手元にやると、スライムが体の中にエリザの両手をめり込ませている。


 どうやら切り落とされたスライムが姿を再生し、その数を倍に増やしているようだ。

 みるみるうちにエリザは両手両足をスライムにめり込まされ、過激なグラビアポーズみたいな格好のまま動けなくなる。



「ちょっ、何これ?」


「姫様!」



 マリジューレが呪文を唱えだす。

 魔方陣が彼女足元に現れ、青白いオーラのような物が槍先に集まり始める。



「ブレイクエアー」



 呪文を唱え終わったマリジューレが言った一言で、槍先から突風が吹き荒れる。周りにいたスライムはバラバラに飛び散り、エリザに着いていたスライムも粘っていたが、少し経つと、飛ばされていった。



「ありがとう、マリジューレ助かった」


「いえ、当然の事をしたまででございます」



 心なしかマリジューレの頬が赤らんだ気がした。



「やはりお父様の言う通り、魔物が強くなっておるな」


「私が、姫様をお守り致します故、ご安心を」


「いやぁ、頼りになるなぁ、マリジューレっ」



 にこりと笑って彼女に抱きつくエリザ、目を開き驚くマリジューレ。



「あ、アハ、あはは、い、いけませんわ、ひ、ひ、めさまぁ」



 さっきまでの腹から出すような声はどうしたのかと思わせるような、間の抜けた情け無い声だった。そう、それはまるで好きな女子に迫られた時の奥手な男子の声のような......



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