間違えられた異世界勇者とグイグイくる姫騎士

ゲットせっと

ぷろろーぐ

 


 月曜日はからついていない――――




「あの、困ります」


「困るのはこっちだ、返品、返品」



 両手で抱えているダンボールを突き返される。その拍子でバランスを崩し転倒、持っていたダンボールの中身をぶちまけてしまう。



「こんなに大量に送って来てどうするんだよ!」



 追い出されるようにドアを閉められる。アスファルトに散らばる社名の入った大量のボールペン。

 納品書にある注文個数は間違っていない。恐らく後になって間違いに気づいた担当者がそれをこちらのミスに見せかける為、無理矢理受け取らなかったのだ。



 散らばるボールペンを全てダンボールの中に入れると、抱えて立ち上がる。


「痛っ」


 倒れた時の衝撃で腰を痛めたようだ。

 ゆっくりと歩いてその場を離れる。人が行き交う中、ダンボールを両手に持ち腰を曲げて歩く、すれ違う人は何ごとかと振り返る。


 そんな中、小さな公園が目に入った。

 腰の痛みもまだある。吸い込まれるように公園内へ入ると、奥にあるベンチに座った。


 ただでさえ憂鬱な月曜にこんな出鼻を挫かれると、今週を乗り切れるのかと、不安に感じる。

 ミスは向こうにあるのだから返品される事がおかしい。この結果だけを見せるとブラック企業の我が社では「営業力が無い」と、確実に怒られる。結果だけを重視する。そんな会社だった......帰りたくない、できればこのままどこかに逃げ出したい。何もかも捨てて自由になりたい――


 人生をやり直せるのならどんなに幸せだろう、幼い頃からの人生の選択を全て変えて、遊びに明け暮れる日々は送らず、志望校も変える。そうすれば今頃は金にも女にも困らず生活出来ている筈だ。


 ――だがそんなことは出来ないということも分かっている。自分のやりたい仕事をやっている人はほんのひと握りだ、それ以外の人は歯をくいしばって生きている。



 太陽はまだ高い位置にあった。生い茂る木々が、歩く人々の顔を隠している。木漏れ日が綺麗な模様のようだった。誰もいない公園、どこかこの場所だけが違う空間に思えた。


 癒される――



「こんな場所、あったんだ......」



 こんな人生でも、少しの癒しを感じられるだけでありがたかった。

 いい気候、外部の音を遮断されたように静まる公園。腰の痛みも和らぎ、ぼーっと地面に映る木漏れ日を眺めていると仕事のことも少し忘れられた。




 そんな快適な時間を裂くように突然突風が吹いた。咄嗟に目を瞑る。



「Open the gate!」



 開いた目に映ったのは飛び込むように公園へ入って来る男だった。



「な、何だ何だこいつ」



 木漏れ日が動き出し、大きな円を描いていく。その円はみるみる模様のようになる。



「えっ? これって......魔法......陣?」



 慌てて公園に入って来た背の高いスーツ姿の細身の男が魔方陣に手をかざしている。男は左右を確認すると、かざした手の指先を何やら動かし始めた。


 彼は俺がいることに気づいていないのだろう、手を堅く握ると魔方陣から光が溢れ出す。

 白く光った模様は男を包み込み、一呼吸もしない間にその姿は光に吸い込まれるように消えた。



 後に残った魔方陣を立ち上がりまじまじと見る。焼けた後の残り火のように光が残っていた。やはりアニメや漫画に出てくるやつと同じだ、ポケットに手を突っ込みスマホを取り出す。



「やっべー、これ結構すごくね?」



 カメラモードに切り替え写真を撮る、カシャカシャと角度を変えて何度もスマホに収めた。



「......様、ゆう......たす......」



 突然掠れたような女性の声が聞こえた。その声に手が止まる。何と言っているのか、もう一度耳を澄ませる。



「けて......様」



 やはり聞こえる、しかも声は魔法陣の中からだ!



「助け......お願い」



 ――助けて、助けてだ!!

 気がついた瞬間、魔法陣が薄い赤い色に光る。


 これは......入れと言わんばかりに光る、このパターンは言わずと知れたあの、あのやつか、この世界に未練はない、むしろ居たくない――



「第二の人生、ありがとう! 待ってろ女子! 今、助ける!!」




 俺、月村永時つきむらえいじは魔法陣の中に飛び込んだ。





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