第16章 勇者アリアの謎

「さて、ジャスティアっていったな。魔王軍だっけ? こっちは助ける義理もねえ。ここで仕留めさせてもらうぜ」


 俺は剣を振りかざし、尻もちをついているジャスティアに向けて近づいていった。


「……ここまでか。魔王様、申し訳ございません。ジャスティアは役目を果たせませんでした」


 ジャスティアは観念したように、その場でがっくりとうなだれる。

 アンテッド属性の軍団の長だけあって、びっくりするほど色白な首筋が印象的だった。血色が悪い、つーか。


 とにかく。

 こいつはこいつなりに、魔王に忠誠心を持っていたようだ。

 ひとかどの人物ってやつかな。せめて苦しめずに殺してやろう――




「きゃああああああああああああああああッ!」




 そのときだった。

 甲高い女の悲鳴が聞こえた。


「って、いまのはルティナ姫の声じゃねえか!?」


「あ、そうだった。宿の裏手にもガイコツ軍団を配置していたんだった」


 ジャスティアがノンキに言った。


「ふざけんな! 裏っていったら風呂場じゃねえか! ルティナ姫、アイネス……!!」


 俺はジャスティアなど放っておいて、風呂場のほうへと走りだす。

 五秒と経たぬうちに、廊下に突入。目指す浴場の扉は奥だ! 急げ! ――そう思っていると。




 突然。

 浴場のドアが、バーン、と勢いよく開いて、




「エルド様ーーーーーーーああああああーーーーーーーっ!」


「エルド! ガイコツが、ガイコツが、怖いっ! アンテッドだけは、だめええええっ!」


「「「「「きゃあああああっ!」」」」」




 女性。おんな。女体。肌色。ピンク。亜麻色。濡れた髪。金髪。ぴちぴち。ぷるぷる。ぶるぶる。ぴちゃぴちゃ。女、少女、女、美女、熟女、成熟。みだら。エロ。むちむち。スレンダー。




 さまざまな単語が脳裏をよぎった。

 浴場の脱衣室から、ルティナ姫が、アイネスが、その他女性客たちが、全裸で飛び出してきた。どうやらガイコツに襲われて逃げ出したらしいが、一糸まとわぬ裸体の上、全身がお湯でずぶ濡れだ。


「あっ、エルド様! 助けて、助けてください、ガイコツが、お風呂場に、って、あっぁっあっ、こ、これは、このかっこうは」


「エルド、ダメだ。ガイコツとかそういうのだけは、私、だめで、ああ、だめだ、見るな、バカ、見ないで、もう。み、見ないでよおぉ! あ、あ、あ――」


「おい、待て、こら、こっち来るな。おおおお……!」


 どっしーん!


 ルティナ姫とアイネスは、濡れ全裸のままこちらへ駆け寄ってくる。

 そして勢いのままに、見事に俺と衝突したのだ。


「て、ててて。……な、なんで正面から突っ込んでく……う」


「あ……」


「う……」


 俺は思い切り、ルティナ姫とアイネスのナマ乳房をわしづかみにしていた。

 手のひらからはみ出るほど大きい、ルティナ姫のむにむに豊満右おっぱい。

 いっぽう手のひらにすっぽりおさまってしまうほどの、アイネスのちょっと固め小ぶりおっぱい。

 嫌でも両方の胸の感触を同時に味わってしまう。と同時に、風呂上りだからなのか、ほんのりとした、なんとも言えない良い匂いが俺の鼻腔をくすぐった。そして彼女たちの濡れた前髪からは、ぽたぽたとしずくが落ちて俺の顔面をうるおしていく――


「え、エルド、様」

「エルド――」


 ふたりの女性は、俺と目が合う。いや、違う。これはだって、不可抗力ですよ?

 と、言い訳する余裕さえなく、彼女たちは――


「いやあああああああああっ! エルド 様 のえっちーっ!」

「いやあああああああああっ! エルド   のすけべーっ!」


 顔を真っ赤にして、おたけびをあげながら隠すべきところを両手で隠したあと、ほとんど同じセリフを吐いて、いずこかへと逃げ去っていってしまった。

 その場には、濡れた床と寒風と、ほんのりとしたいい匂いだけが残される。


「………………」


 いや。

 その。


 ……うん。

 すごかった。いろいろと。


『………………ザザザザザ………………!』


 !?


 な、なんか宝玉からすさまじいエネルギーを感じるぞ。な、なんだ!?


「ハハハハハ……!」


 と、そのときだ。甲高い声が聞こえてきた。

 ジャスティアの声だ。声がしたほうに向けて改めて走っていくと、宿の入り口で、ジャスティアがマントを翻していた。逃げる準備万端、という感じだ。


「ジャスティア!」


「魔法戦士エルド。今日のところは引き分けで勘弁してやろう!」


「…………いや、お前ボロ負けだったじゃん。めっちゃ死を覚悟していたし」


「やめろバカ! この状況でそこはスルーしてくれよ!」


 スルーするほど過去の出来事じゃないでしょ。

 魔王軍『死の騎士団』の団長というが、さてはこいつアホだな?


「こほん。と、とにかく今日のところは小手調べなのだ」


「わりと気合入れて攻めてきてなかったか? ガイコツ何十体もいたし、両面作戦で宿を攻撃してきたし」


「うるさいうるさいうるさい! 僕が小手調べといったら小手調べなのだ! ……とにかく!」


 ジャスティアは右手を掲げた。

 すると、その背後にガイコツが何十体も出現する。


「こいつらは宿の裏手を攻めていた部隊だ。……今夜は本当にこれでおしまいだ。『死の騎士団』は撤退する。今夜は安心して眠るがいい」


「…………」


 そりゃどうも、とでも言うべきかどうか。

 宿を騒がせた謝罪くらいは、欲しいところだが。


「魔法戦士エルド。貴様の実力はよく分かった。魔王軍は今後、貴様を完全に警戒する。だが、ひとつだけ覚えておくがいい。この戦い、人間側が勝つ可能性はゼロだ」


「さあ、どうかな。そりゃ、やってみなきゃ分からねえぞ?」


「分かるさ。……例え君がどれほど強くとも」


 ジャスティアは、不敵に口角を上げた。




「勇者アリアがいない以上、人間の敗北は絶対だ」




「な……」




 こいつ、いま、なんて言った?

 アリア、といった。初代勇者アリアの名を、こいつは確かに口に出した!

 初めて聞いた。ルティナ姫もアイネスも知らない勇者アリアの存在を、魔王軍所属のこいつの口から確かに聞いた!


「それではな、エルド。次は必ず勝利する。再戦の日まで壮健なれ」


「ま、待てっ! ジャスティア――」


 俺は手を伸ばし叫ぶ。

 しかしジャスティアとその後ろにいたガイコツ軍団は、光に包まれて消えてしまった。

 移動魔法……? いや、それとはちょっと違う移動だ。魔王の力か。……しかしそれよりも。


「アリア……。魔王軍は、勇者アリアを知っている……」




 ――君がどれほど強くとも、勇者アリアがいない以上、人間の敗北は絶対だ。




 ジャスティアの勝ち誇った声音が、やけに耳に残った。

 勇者……。勇者アリア。アークの先祖。お前はいったい、どこでなにをやっているんだ?




 その夜。

 俺はジャスティアの言葉の意味を、ベッドの中で考えようとしていたのだが、


「……なあ、ところで、どうして俺のベッドで3人いっしょに寝なきゃいけないんだ?」


「だ、だって、だって、またガイコツが来たらと思うと怖いんです……」


「わ、私は姫様の警護のためだ。同じベッドだからって間違っても姫様の肢体に触れるんじゃないぞ! ……ど、どうしても女を触りたくなったら……私を……」


「アイネス、ずるい! エルド様、私は、は、恥ずかしいですけど嫌ではありませんっ。いつでも、い、いつでもどうぞっ……!」


 なぜか同じベッドの中でルティナ姫とアイネスに挟まれた状態で寝ることになった俺。

 ひさびさに魔法剣のスキルを使ったんだし、さすがにちょっと疲れているんだが、


「ひゃうっ! え、エルド。指先が、ふとももに……」


「あ、わ、悪い! わざとじゃないんだ!」


「…………」


「び、びっくりしたぁ。……手はお腹の上にでも置いておけば、こういう事故は防げるんじゃないか?」


「そ、そうだな。――ひゃうっ!?」


「あらエルド様、ごめんなさい。わたしとしたことがうっかりエルド様の腹筋に指先を!」


「姫様! うっかりで腹筋を触る方がありますか! ゆ、油断がならない……!」


「本当ですっ! わざとじゃないんです! で、でもでもエルド様は、わざと触ってくださっても結構ですよ……?」


「姫様! なんと破廉恥な! なんとはしたない! なんと、なんと……あ、あああ……!」


 こんな会話が延々と続いた。

 うるさくて、やかましくて、あとなんかいろいろ柔らかくて――

 考え事もできやしない。ちくしょう!

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