第13章 未来の魔法でババンと解決

 店内に入ると、


「いらっしゃい」


 と、武骨そうな主人がむっつり顔で出迎えてくれた。

 店内には、数人の武骨そうな男が揃っていて、飾られている武器や防具を品定めしている。――わりとムサい。俺は慣れてるけど、ルティナ姫やアイネスは、入った瞬間露骨に顔をしかめた。中古の武器屋なんてこんなもんだよ、おふたりさん。


「なにかお探しで?」


 主人は、コワモテをこちらに向けてきた。

 ルティナ姫がびくっとしてしまったので、俺は彼女をかばうように一歩、前へ出て、


「中古の剣で、なにか出物はないかな? 例えばはがねの剣が安く――2000バルク代で手に入ったら、言うことねえんだが」


「はがねだと? あんな貴族か騎士が使うような得物、うちにあるわけねえだろ」


 やっぱりそうか。

 さっき寄った武器屋には置いてあったけどな、はがねの剣。

 だけどあの店、すごい内装が豪華で、金持ちのためのお店って感じだったしなあ。


「うちにあるのは貧乏人の武器ばっかりさ。銅の剣とかヤリなら、いくらでもあるがね」


「掘り出し物で、なんかいい剣ねえかな? 安いけどこれはオススメ、みたいなの」


「ねえな。そんなもんあったらとっくに裏で流してら。店頭なんかに置いてねえよ」


 乱暴な主人の物言い。

 すると店の中にいた男たちが、くすくす笑った。このシロウトどもめ、みたいな笑い方だ。

 その言葉遣いに、ルティナ姫はムッとしたのか、なにかを言おうとして一歩前に出るが――俺は無言のまま、手で制した。場末ばすえの武器屋なんてこんなもんだって。いちいちキレてたら身がもたねえよ。


「どうしてもっていうなら、ほれ。……そこに安物の武器ばかり揃えたコーナーがあるから、そこから自力で見つけてみな」


 店主があごで示したところは、店の隅っこの床の上。

 その上には、ボロボロの剣や、錆びついたヤリ、さらにはヒビの入ったオノなどが置かれてある。ほとんどゴミだ。


「あ、あんまりです。いくらなんでも馬鹿にしすぎです……!」


「エルド、帰ろう。これならよそで銅の剣でも買ったほうがマシだ」


 ルティナ姫とアイネスは怒りで顔を赤くさせている。

 やれやれ。まあ気持ちは分かる。俺だって愉快か不愉快かって言われたら当然後者だし。

 邪魔したな、と小さくつぶやいて店を出ようとする。――だが、そのときだった。

 

「……ん?」


 俺は思わず、隅っこにうち捨てられた剣の中を見つめていた。


「どうされましたか、エルド様」


「いや、これは……」


 ふと、感じるものがあった。

 そのまま俺は、ゴミのような剣の山の中から、一本の剣を拾いあげる。


 ほれぼれするほど見事な刀身の剣だった。鈍く光った輝きがまばゆい。

 ツカと取っ手の部分は黒一色で、なにやら不気味だ。しかし握っていて不快な部分はなにひとつない。むしろこの手に馴染むくらいだ。


「す、すごい剣ですね、それ。わたしにも分かります」


「うむ。これは見事な剣じゃないか。なぜこんな剣が、ゴミのような中古品の中に埋もれているのだ?」


 ルティナ姫とアイネスは揃って驚愕の面持ちだが、そのとき店内がどっと沸いた。


「あっはっは、怖い、これだから素人さんは怖い!」


「女連れの色男なんざ、やっぱり妙なものを手につかむねえ!」


「よりにもよって魔刀工ヴィルアスの作った、呪いの剣を求めちまうたあ……!」


「ヴィルアス? どこかで聞いたことが――」


 そうだ、思い出したぞ。

 初代勇者の時代から、さらにさかのぼること数百年。

 ヴィルアスという魔族の鍛冶屋がいた。そいつが作った武器はめちゃくちゃに強かった。剣は鋼鉄だって斬れるし、槍はどんな盾でも貫ける。斧はいかなる岩でも真っ二つ。ヴィルアスの作る武器は天地のバランスを壊すとまで言われていたんだ。


 だが、その武器はやがて求められなくなっていった。

 なぜか。それは呪われていたからだ。一度装備すると、その剣は手に貼りついて取れなくなる。そして剣を装備していた者は仲間であっても襲いかかるようになってしまう。


 そんな剣を欲しがるやつはいない。

 人間はもちろん魔族にも忌み嫌われたヴィルアスの武器は、ほとんどが打ち捨てられた。いまではせいぜい一部の物好きがコレクションしている程度だという。


 いやー、おとぎ話でも聞いておくもんだな。

 歴史は苦手だけどこの話はインパクトがあったから覚えていたんだが、そうか、これがヴィルアスの作った剣か。


「『漆黒の剣』っていうんだ」


 店主が、くすくす笑いながら言った。


「装備した瞬間、仲間を殺したくなって仕方なくなる、ヤバい剣さ。まともな店じゃ取り扱わねえ。だからうちに回ってきたんだが、ここでも当然売れないもんだから、そこにほったらかしといた。……くくくっ、あんた、それ買うかい? その剣なら10バルクでいいよ」


 店主がそう言うと、店の中はまた爆笑に包まれた。


「確かにヴィルアスの剣なら切れ味はいいな!」


「はがねの剣なんかメじゃないぜ! ぎゃははは……!」


「よせよせ、挑発すんな。本気で買って、美人の姉ちゃんたちが斬られたらどうする!? うひゃひゃひゃひゃ!!」


「あっはっはっは! わっはっはっはっは――」


「分かった、買うぜ」


「あっはっは――は?」


 ぴたり。

 店内の笑いが止まった。

 それまで怒ったような、剣を怖がっているような顔をしていたルティナ姫とアイネスも、俺を凝視する。


 だが、俺は動じない。

 そのままスタスタと、店の主人の前まで移動して、


「はい、10バルク」


 と、10バルク銀貨を彼の前に置いてから、


「さ、いこうぜふたりとも」


 ルティナ姫とアイネスを促した。

 ふたりはなお、呆然としている。――そして、


「「「「「ま、待て待て待て待てぇ!!」」」」」


 店内の客たちは、さらに武器屋の主人まで含めていっせいに俺を呼び止める。

 全員大声でうるせえなあ、もう。なんだってんだ、いったい……。


「お、お前、本当にそれを買う気か。『漆黒の剣』を」


「ああ、買うよ。だから10バルク払ったじゃん」


「ば、バカじゃねえのか? 呪われた剣だぞ!? オレらの話聞いてたか!? 仲間を殺しちまうんだぞ!?」


「聞いてたよ。だからなんだっていうんだ」


「え、エルド様……?」


「エルド。お前、どういうつもりなんだ、そんなもの買って……!」


 ルティナ姫とアイネスまで、俺をすごい瞳で見つめてくる。

 ふたりまで分からないかなあ。ルティナ姫とか特に、分かってもよさそうなもんを。


「それならみんなが安心するために、ここでちゃっちゃとやっちゃおうかね」


「や、やっちゃう? なにをやっちゃうってんだ?」


 店主はなお、キョトンとしていたが、俺は構わずにやった。


「【アブレム】!」


 俺がその魔法を使った瞬間、『漆黒の剣』のツカと取っ手部分の黒さは、シュワッ――

 蒸発したように霧散し、ツカと取っ手は緑色に輝き始めた。刀身から放たれていた禍々しいオーラも消え失せている。


「な、なんだ、いまのは? ヴィルアスの剣の色が変わった……」


「エルド様。いまのはもしかして、わたしを助けてくださったときの――」


「ああ、そうだ。解呪魔法【アブレム】だよ」


 ルティナ姫が閉じ込められていた鉄格子。

 その鉄格子には魔王の呪いがかかっていた。

 その呪いを解いた、初歩の解呪魔法。【アブレム】だ。


「か、解呪魔法だと? しかしそんな魔法で剣の呪いを解呪するなんて、聞いたこともねえぞ!?」


「そう言われてもな。できるもんはできるんだから、仕方ないだろ」


「え、エルド。ならばその剣は――『漆黒の剣』はもう、呪われてないということか?」


「そうだよ。当然だろ?」


 俺はさらりと答えた。

 すると、アイネスも店主も、その場にいた客も、誰もがあんぐりと口を開ける。

 ただひとり、ルティナ姫だけは瞳をキラキラさせて「さすがです、エルド様! そうでした、【アブレム】があったんでした!」とウンウンうなずいていたが……


 なんでみんな、そこまで驚いているんだか。

 初歩の解呪魔法を使っただけじゃん。大したことしてねえのにな、俺。


「ま、いいや。とにかくいい剣が手に入ったぜ。ありがとよ。じゃあな」


 俺はそう言って、店を出る。

 ルティナ姫はニコニコ顔で、アイネスは慌ててついてきた。


 店を出て、何歩か歩いたそのとき、


「なんなんだいまのは~~~~~~っ!!」


 と、店の主の雄たけびが聞こえてきたが、知ったこっちゃなかった。

 さーて、食糧買ってバックスの村に行こうっと。

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