第8章 ご先祖様とのバトルでも無双

 【王家の墓】の中である。

 これまでモンスターと出くわさなかったってのに、ここに来て敵襲か!?

 と、俺とルティナ姫が思わず構えた、そのときである。


<そういきり立たたずとも、いま現れますとも。――ああ、人間と会話をするのは何百年ぶりでしょうか。実に久しい……>


 やけに色っぽい、女性の声だった。

 かと思うと、目の前にあるディヨルド王家の墓が輝き始める。

 そして気が付いたときには、その墓の上に。――茶色の長い髪をした美女が、ふわふわと浮かんでいたのである。


「ど、どなたですか。……いえ、似ている。わたしと父上に。……他人のような気がしない……」


<その通り。ルティナ・ディヨルド……ディヨルド王家の女よ。わたくしはローザ・ディヨルド。ディヨルド王国の初代国王ですわ……>


「し、初代国王……陛下!? ですって……!?」


 ルティナ姫は、思わずその場に片膝を突いた。

 俺も、とりあえずそれにならうが……。


 なんてこった。

 王家の墓とはいえ、初代国王がご登場とは。

 ぷかぷか浮かんでいるところを見ると、どうも幽霊とか魂の類らしいが……。


 豊かな乳房、それとは対照的に細い腰回りと肉付きのいい下半身は、子孫のルティナ姫とよく似た体型だ。

 ルティナ姫があと何歳か年を取ればこんな感じになるんじゃないかと思うほど、成熟した色気の漂う大人の女性。違いといえばルティナ姫は平均的な身長だが、初代のほうは高い背丈であることぐらいか。薄手の、シースルーな衣をまとっているのがその麗しさにいっそう磨きをかけている。


おもてを上げなさい。……ふむ、我が子孫だけあって悪くない面構えですわね。よくぞ参った、とでも言うべきでしょうか。なにしろ久方ぶりの子孫のご登場ですし、とりあえずは歓迎いたしますけれど>


「は、はい。……ありがとうございます。で、ですがご先祖様。なにゆえ、アイネスを攻撃なさったのです?」


<いきなり人の墓を探ろうとするからですわ。我が子孫でもない者が王家の墓を触るなど不届き千万。ゆえに水魔法をお見舞いしたまでです>


 ふふん、とローザ・ディヨルドの魂は口角を上げ、気絶してぐるぐる目になっているアイネスの顔をちらりと見た。


<それにしても弱い女ですわね。ディヨルド王家も落ちたものです。この程度の者を家来にしているとは……>


「アイネスは弱くありません! いまのは不意打ちを喰らったからです!」


<あの程度の不意打ちで気を失うのが弱いことの証明です。――ふうむ。我が子孫よ、あなた、どうやら『癒やしの杖』を求めてきたようですが――それ!>


 バッ、シャーン!!


「きゃあっ!!」


「ルティナ姫!!」


 ローザ・ディヨルドが右手を突き出す。

 すると、その手先から水流が発射され、ルティナ姫は数メートル、後ろに向かって吹っ飛んでしまった。


「あ、あんた、なんてことするんだ! ルティナ姫のご先祖様だと思って黙ってりゃ酷いことしやがる!」


<お騒ぎにならないで。いまのはずいぶん手加減しました。別に怪我はしていないでしょう>


 と、ローザ・ディヨルドが言ったように、ルティナ姫は大きなダメージは受けていないようだ。


「うう、ん……」


 とうめきながらも、ゆっくりと起き上がってくる。

 アイネスと違って子孫な分、いちおう手は抜いてくれたらしい。

 しかしルティナ姫が吹っ飛んだその結果は、ローザ・ディヨルドにとって不満なものだったようだ。


<ルティナ。あなたもやはり強いとは言えませんね。子孫とはいえ、弱き者に我が宝を譲るわけにはいきませぬ。立ち去るがよいでしょう>


「そ、そんな……。ご先祖様、どうかお助けください。我が父が、すなわちあなた様の子孫がいま、病にかかっているのです!」


<病に負けるようならば、それもまたその人間の運命ですわ。あきらめなさいませ。わたくしは強い者しか認めませぬ。強さこそ正義。その哲学あってこそ、ディヨルド国を拓けたのですから>


 お嬢様口調ながら、ローザ・ディヨルドは手厳しい。

 豊かな胸の前で腕を組み、傲然とした態度を崩さない。


<まったく、しばらくぶりに客が来たと思えばがっかりですわね。先ほどの金髪少女といい、我が子孫といい、この程度の者しかいないのかと思うと悲しくなりますわ。はあ……>


 ローザ・ディヨルドは、呆れたようにため息をつきながら、気絶しているアイネスとうなだれているルティナ姫に視線を送る。――そしてその後、彼女は俺も見つめてきた。


<あなたも我が子孫の仲間ですか。ふう、なんともヒョロヒョロして頼りなげな若者ですこと。わたくしの生きていたころは、男性はもっとたくましい者が多かったのですが……>


 昔はよかった系の話題スか。

 この時代の子孫や兵士があっさりとやられるのを見たあとじゃ、過去はよかったと思うのも無理はないけど。


<おまけになんですか、その武器は。それは洗濯ものを干すさおではありませんか。あなた、戦いを馬鹿にしているのですか?>


「あっ、それについては反論できないッス、はい」


 相手の立場になって考えるとやべえな。何百年ぶりにやってきた子孫の仲間が、ものほしざお装備って。そりゃ俺でも落胆するわ。


<はあ。王国の行く末を見守るために、魂になって数百年。子孫とその仲間がこの体たらくとは。これならば天界に旅立っていたほうがよかったのでしょうか……>


 ローザ・ディヨルドは、いよいよ肩をがっくりと落とした。


<先ほどの女騎士も我が子孫も、わたくしの水魔法で一撃……。あなたもどうせ、その程度の人間なのでしょうね――>


 彼女は、見下すようなまなざしで俺のことをじっと見つめてくる。

 大したことあるかないかで言えば、俺なんか大したことないよな。

 勇者じゃねえし。しょせんパーティー最弱だった男だし。失望されても仕方ないんだけど。


<…………って、あれ?>


 突如、ローザ・ディヨルドの目付きが変わった。

 一気に険しい顔になる。スキのない佇まいになる。じっと、じっと、じぃぃーーーーーっと、俺の五体を観察してくる。な、なんだよいったい。


<え? あれ? あれ? ……え、あなた、もしかしてお強い? あれあれ? なんか全身から漂ってるオーラ、半端ないんですけど??>


「え? ……いや、俺なんか別に大したことないんスけど」


<嘘おっしゃい! で、出くわしたこともない強烈なパワーを感じますわ。どういうこと!?>


「どういうことって言われても……」


<……よろしい、あなたから感じるすごみ。本物かどうか、わたくしが試してさしあげましょう! ――【ウォルラ】!!>


 ローザ・ディヨルドは両手を突き出し、魔法を発動させた。

 その全身が青く激しく輝いて、次の瞬間、彼女の両手のひらから、俺に向かって猛烈な水流が放たれる。

 それはアイネスに仕掛けた不意打ちよりもさらに数十倍は激しい、圧倒的な水魔法の力だったのだが、


「なんだ、こりゃ」


 俺は右手で、水流を軽く薙ぎ払った。

 バッシャァァーン、と水流は方向を変え、洞窟の壁にぶつかって霧散する。


<あ。あ、あ、あ……わたくしの、わたくしの最強の水魔法を、はじきとばした……?>


「最強? 冗談でしょ」


 いまのは下級水魔法だろ。

 まあ、それなりの威力はあるけれど。それでも下級は下級だ。初歩的なレベルの魔法だな。


 そもそも最初にアイネスがやられたときから思っていた。

 ローザ・ディヨルドが使うのは水魔法のようだが、大した威力じゃねえなって。

 アイネスは不意打ちのうえに、よっぽど打ちどころが悪かったから気絶したんだろう。


 ルティナ姫を吹っ飛ばしたのだって、彼女はもともと戦闘員じゃないのだから、弱い水魔法でも吹っ飛んでしまう。ルティナ姫を倒したからって自慢にはならない。


 だから、つまり。

 俺は最初から思っていた。

 このローザ・ディヨルドってひと、やたらイバってるけど、そんなに大したことはないよなって。

 それとも、あれか。いかにも本気みたいに見えて、実は手を抜いているんだろうか。……うん、それ、ありえるな。


「だってこれくらいの水魔法なら、俺でも軽く撃てるしなあ」


<な、な、なんですって?>


 あ、やべ。独り言だったのに聞こえちゃったか。


「ま、いいや。……セリフ通りだよ、ご先祖様。やってみせようか? ほれ」


 俺は右手を突き出して、【ウォルラ】を発動させた。

 すると、バッシャーン、と水流が俺の手のひらから放たれて、


<ひいいぃ~~~~~~~ん!! な、な、なんですかこれはぁぁぁっ!!>


 ローザ・ディヨルドは、魂だけの存在でありながら、激しく吹っ飛んで壁にその身を打ち付けた。

 ん~、まあこんなもんか? 久しぶりに水魔法を使うから、いつもより威力、低いかも?

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