うろごと

作者 鎖えいし

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★★★ Excellent!!!

梶井基次郎は嘗て、櫻の樹の下には屍体が埋まつてゐる、と書いた。
なれば、桜の絵の下には如何か。屍体があるとすれば、それは誰のものか。

小説の冒頭で御崎氏はこう、語りかけます。
「虚がありますね、この桜には。」
虚とは樹幹についた傷に菌などが侵入し、腐食してできあがる空間、欠損。すなわち、虚のある樹は如何に青々と葉が繁っていても、力強く地に根を張っていても、その虚のある部分は既に死んでいるのです。
想像してみてください。
からだの一部、例えば腕や脚や胸が、既に屍体となった状態で生きる様を。

…………

これほど凄絶な桜の物語を、カクヨムにて拝読させていただけるとは予想だに致しておりませんでした。埃のにおいまで細やかに読者の想像に訴えかけてくる文章と、背筋が凍えるような《絵画》についての伏線の数々。
実に麗しく、妖しげな幻想小説でございます。

是非ともあなたも、この桜に魅了されてみては如何でしょうか。そうしてどうか見つけだしてください。桜の下に埋められた、ひとつの虚ろなる《死》を。

★★★ Excellent!!!

その桜には、虚がある。
良人のいぬ間に、彼女のもとを訪ねた男は云う。
異形の桜を描いた絵から、炯炯と眸を逸らすことなく。

梶井基次郎曰く、桜の下には屍体がある。
ならばその眩いばかり白い花脣は、何を隠して狂い咲くのか。

花の下にあるものは、あまりに切なく、痛々しいもの。
花で粧うた膚を剥がせば、哀しい血潮の指さきを濡らす。

美しく硬質な筆致で紡がれたこの物語に、出逢えてよかったと、一読者としての倖せを噛み締めています。