第十九話 あたらしい仕事【001】
001.
僕の手元には、銀貨5枚がある。
「お金がこれしかなかったら、魔王から逃亡するのには厳しいな……やっぱり仕事をするしかないか。」
僕はため息をついて馬車に乗り込む。
僕はこれから、はじまりの町に向かうことに決めた。勿論この街はこの国で最も栄えている場所であるため、仕事を探すのは簡単だ。しかしながらそれは今の話であり、魔王の襲撃が激しくなった後ははじまりの町が最も安全な場所になり、人口がはじまりの町に流入するだろう。
それに、現在のはじまりの町は冒険者の数が少ないため人手不足で職に困ることは少ないであろうし、何せ対応する冒険者が少ないギルドで働けば楽なことこの上ないだろう。
僕はこのような
「楽な仕事がいいなぁ。やっぱり大変だし、何せ努力してもどうせ裏切られるだけだし。」
僕はあの時の様子を思い出す。
皆、結局国の犬なのだ。
大きい権力の前では太刀打ちすることすらできず、自分で考えることすらできず、ただそれに従って生きるだけの存在だった。
期待した僕が馬鹿だったのだ。
あれだけの仕事を直ぐにこなせる人なのだから、尊敬に値すべきで、いつでも困難に果敢に立ち向かうと思っていた。
しかしながら現実はそうではない。
どんなに職権が大きい職業であるとはいえ、それはただ国王の末端組織で何も自由に意思決定をできない。その自由度がどれくらいであろうが結局僕たちは奴隷と同じで、常に何かに首を縛られて生きなければいけない。
僕はそんな生き方が嫌いだ。
以前の僕なら、その現状に甘えて生きていたかもしれない。それは自分に自信がなかったからだ。自分がヘタレだと思っていたし、得意なことも無かった。
しかし今は、魔導工学という武器も持った。試練も乗り越えてきたという自信もつけた。
今の僕は、誰にも縛られず、逆に誰にも頼らずに生きていくことができるのだ。
師匠も「光るものがある」と言ってくれた。そして僕は、それを必死に磨いた。そうであれば僕は今、その光るものを使う時に面しているのだ。だから僕は、僕自身の手で、僕の大切なものは守るし、魔王だって斃す。僕はそれだけの実力を持っているのだから、それくらいできて当然なのだ。
「僕には一人の方が似合っているんだ。なんで今まで気が付かなかったんだろう?」
僕はそう言って、馬車から身を乗り出して景色を眺める。
「お客さん。危ないですよ。」
僕は高らかに笑って返す。
「大丈夫ですよ。僕はこの馬車から転がり落ちても死なないですから。」
もし今落ちても僕の持っている魔道具を使えば空中を浮くことができるし、もし怪我を負っても回復魔法を魔道具で発動させれば良い。
魔道具は便利だなぁ。
魔力を使わなくても、空気中のマナを用いれば無限にでも使うことができるし、僕の創意工夫次第でいくらでも、どんなものでも作ることができる。それこそ自然の理に反したものでも、魔王を斃す魔道具もできるだろう。
何故、皆この技術を学ばないのか不思議になった。
しかし僕にはすぐに結論が思いついた。
僕や師匠以外はヘタレで、思いつく脳が無いだけなのだ。だから僕が当然できると思っているものは勿論皆出来ないし、それは求めても無駄なのだ。
「まあ、どうせ魔道具は危険が迫ってからでないと皆価値がわからないからとりあえず楽な仕事をしよう。」
僕はそれだけ言って、横になった。
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