第十八話 これからの僕たちは。【004,005】
004.
僕はアジトを飛び出し、馬車駅に向かっていた。
「何が仕方ないだ。何が死ぬ時に後悔しないようにだ。そうやって格好つけて、結局のところ自分は歯向かっていく勇気すらないクセにそれが大人だとか言って努力する奴を軽蔑する。努力すらしない奴よりも、努力してできない奴をヘタレだと言って、自分たちは何でも知っているかのようにふるまう。そしてそれがあくまで正しいことのように言うんだ。」
僕は速足になって歩く。
「そうだよ、僕はヘタレだよ。じゃあ、ヘタレはヘタレなりに自分一人で生きていくっつうの。」
僕は足元の石ころを蹴り飛ばす。
「石ころみたいに蹴り飛ばされて殺されたいならそれでいいし、それが後悔しない生き方なんだったらそうすればいいさ。」
魔王が攻められた時、恐らく最後に襲われる場所ははじまりの町だ。
そして、それは逆に言うと、はじまりの町に居れば今のところは安全だということである。
だからまずは、はじまりの町で何か固定の職業を見つける。
その職はなるべく簡単で楽な、効率の良い仕事が良い。何故なら仕事以外に費やせる時間が増えるし、人間関係も面倒ではないからだ。
仕事以外の時間で、魔王の調査を行って、新しい魔道具を作る。勇者はどうせ殺されるのだろうし、もし殺されたら僕たちは魔王に対抗する手段を本当に失ってしまう。だから僕は、もしも魔王から襲撃された時に、少なくとも少しの間時間を稼げるくらいの魔道具を作っておけば、もし狙われても安心だ。仲間なんて頼るよりも、自分で作ったほうが効率的だし、楽だ。
仲間にはどうせ、信頼しても裏切られる。だから信頼するだけ無駄なんだ。
僕の頭の中ではそんな思考がグルグルと渦巻いていた。
005.
「みなさん!スピカが出て行ったのに何も言わないんですか?」
私は少し怒っていた。
もしかしたら、心の片隅に彼に対する贖罪の気持ちがあるのかもしれない。
ただ、彼はそのままただ見過ごされていくことが気に食わなかったのだ。
「私たちは関係ありませんよ。彼はここを彼の意志で飛び出した。彼はそうしたかっただけですよ、エレナさん。」
私はネビルさんを睨む。
「でも、彼がここを飛び出したのだったら、それを追っかけてあげるのが仲間じゃないんですか?」
「私たちはもうこの仕事を辞めることになります。ですから、もう彼とは友人かもしれませんが仲間ではないのです。」
「そんな!じゃあ、彼のことは仕事ではないからどうでも良いと?」
「どうでも良いなんてことは言ってないよ、エレナちゃん。彼は彼なりに、彼がやりたいこと、彼が動く理由があって飛び出した、そう考えてあげるのが、彼を大人扱いすることなんじゃないかな?」
「でも、彼がこの先一人で生きていけるかどうか……」
「そういう考え方の方が彼に失礼だと思うよ。僕たちは僕たちで、彼ではないんだ。だから僕たちは、彼が自分で生きていけることを信じるしかない。」
「でも……」
「僕たちは彼の人生の支配者ではないんだよ、エレナちゃん。そしてもちろん彼も、誰かの人生の支配者じゃない。僕たちは国民の生殺与奪を握る権利も義務もない。だから彼がここを飛び出して、そこで成功しようが失敗しようが、生きようが死のうが僕たちはそれに干渉することはできない。」
茜音さんが私の目を見て言う。
「それでももし、エレナちゃんが心配だって言うんだったら、行ってあげなさい。それは業務としてではなくて、あなた個人として。彼は魔法屋のお婆さんのところで修業したし、それだけの技術力もある。国王様もそれを認めてくれていた。でも、彼は心に弱さを抱えていると思うの。だから、もしあなたが彼の面倒を見てあげるんだったら、彼の弱さを支えてあげなさい。今私たちがここで動き出してしまえば、彼にはきっと良い影響が与えられないし、彼はいつまでも自分の意志で動いて、自分で強くなろうと思わない。与えられた幸せの中で生きることになってしまうと思うの。だから、お願い。ね?」
「何がお願いですか!私にそうやって押し付けて、自分たちは呑気に旅行計画ですか?」
私は怒る。
何故みな、自分の仲間が飛び出して行ったのにも関わらず、何も感じないのかわからない。
「エレナさん。」
私はネビルさんから呼ばれ、振り向く。
「エレナさん。死なないでくださいね。」
私は沈黙した。
何が「死なないでください」だ。
自分たちが一緒に行けば、私だって危機に晒されることはないのだ。
そしてスピカがこの中で最も危険に晒されている。
そんなことすら考えずに、「それは自己責任だから」と言って責任逃れをする。
この人たちはこんな人だったのか?
私は何も言わずに席を立ちあがり、そのアジトを出た。
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