第十八話 これからの僕たちは。【003】
003.
皆僕の方を意外そうな顔で眺める。
再び、その場を静寂が支配する。
「なんだ。そんなことか。」
ルドルフさんが言う。
「なんだ、そんなことかって何ですか?僕たちが今まで積み上げたものは?僕たちが大切に思ってきたものは?守ってきた人々は?もし僕たちが、勇者を殺して何も対抗せずにいたら、僕たちが今までやってきたことの意味が無くなるじゃないですか!」
僕は怒りのあまり、叫ぶ。
すると茜音さんが全て悟ったように話し始める。
「そうね。私たちは多分死ぬでしょうね。まあ、私たちだけではなくて、今まで私たちが命がけで守ってきた人も。」
「じゃあなんで!おかしいじゃないですか!」
「でも、私たちがその人たちを助けたという事実は捻じ曲げられないでしょ?」
「それはそうですけど……そんなの詭弁です。結局僕たちはその人たちを見殺すことになるんですから。」
するとルドルフさんが僕の目を見て言う。
「おいおいスピカ。お前は一体何様だ?勇者か?救世主か?」
「でも、僕たちは国を守るという役割を……」
「俺たちはそんな役割なんか持ってねぇ。そんな義務もねぇ。勇者じゃないんだからな。俺たちはただのモブで、国が公にできないことを裏でこなしたり、勇者の手助けをしたりするための役割を持っているんだ。だから、俺たちは国の意思決定に背くことはできないし、する必要性も無い。」
「そんな……じゃあなんで多くの人を助けたりしたんですか?」
「それは業務だからだ。だから、どんなに魔王が襲ってこようが、どんな緊急事態が起ころうが、俺たちに人を救う義務はない。権利もない。助かりてぇ奴は勝手に助かるし、運が悪けりゃ助からねぇ。そんなの自己責任だ。」
僕は項垂れる。
結局、みんな非情な人間だったのか。
今までのことは全部仕事でやっていただけで、そこに自分の心も自分の意志も無かったのか。
「私たちは国王様の直属組織でしょ?だから、国王様の決定は全てだし、私たちはその中で動くことができる。円卓会議に出席できるのも貴族の屋敷に入れるのも、情報を得られるのも、それこそこのアジトを利用できるのも、その上での話。私たちの職権の中でできる話。だから今は、この事実を早く知ることができたということを喜んで、いつ死んでもいいように、後悔しないように生きることが大切でしょ?」
そう言って茜音さんは僕に言う。
「そうだよ。だから僕たちは、僕たち自身で、任務に縛られることなくそれぞれの準備をすればいいんだよ。何も難しいことはない。」
そう言って、秋月さんは僕の目を見る。
「特別に国王様からこのアジトを使っていいって言われているんだ。だから暫くの間はこのアジトを拠点にして行動できるね。」
何が「職務が終わった」だ。
僕は何のために大切なものを守ってきたのだ?
今まで僕たちが過ごしてきた時間は何だったんだ。
僕たちはこんな結末のために努力をしてきたのか?
皆優秀で、才能を持っている。もしここで皆が団結すれば、もしかしたら魔王を止めることができるかもしれないのに、可能性は少しだとしてもあるのに、足掻こうとすらしない。
何がヘタレだ。僕より今の皆の方がよっぽどヘタレだ。
努力をすればできるかもしれないのに、それをやらない人は「ヘタレ」以外の何物でもない。
僕は机に手をついて立ち上がっていた。
「もういいですよ!あなたたちが何もやる気が無い人たちってことはわかりました。わかりましたよ、じゃあ僕は僕の好きなようにさせてもらいます。その代わり、もうあなたたちのようなヘタレと一緒に仕事はしたくない。」
皆が僕の顔を驚きの眼差しで見る中、僕はアジトを飛び出した。
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