第八話 Stay hungry. Stay foolish.【001】
001.
僕は慎重に魔法屋の扉を開ける。
何故僕が今、魔法屋の前に来ているかというと、それは先日のルドルフさんのアドバイスの後、僕は自分自身に自信を持って「ヘタレ」を脱することを決意した為である。
僕にしかない光る原石。
ルドルフさんのあの言葉は、僕の心を勇気で満たしてくれた。
しかしそれと同時に、その言葉はこの仕事の厳しさを物語っているように思えてきた。
光る宝石が無ければこの仕事をやる資格が無い、そして、僕たちの起こす行動一つ一つが国の存続を「見えないところで」左右しているのだということを認識しなければならないのである。
エレナさんのこともそうだ。
エレナさんが悪いのでは無い。
実際僕は「今まで自分の宝石を磨いてこなかった」わけであるし、少なくとも自分から人に教えを乞うて、それを磨こうとはしなかった。何事に対しても果敢に立ち向かうこともしてこなかった。エレナさんのように両親を目の前で失うというような壮絶な経験もしたこともない。
だから僕は、自分が自分を変えるために、修行をして自分というものを確立しなければならないのである。
僕は意を決して、魔法屋の扉を開ける。
魔法屋の中はやはり薄暗く、埃の臭いがする。そして、その場から動かずに周りを眺めることができるほどこの魔法屋は小さい。
「あ、あの。すみません!」
僕があの時と同じように呼びかける。
しばらくすると、魔法屋の裏から老婆が出てくるのがわかる。
「あの、この前お世話になった、スピカですけれど。」
その老婆は眼鏡をずらし、「あらあら。この前の。来てくれたのね。」と言い、指をパチンと鳴らした。
僕は以前来た時に見た、大広間に立っていた。
「さあさ、そこに座って。」
老婆は僕を急かすように椅子に座らせる。
「今紅茶を入れるから、待ってらっしゃい。」
僕は椅子に座って周りを見渡す。
そこら中に色々な工具や部品が所狭しと犇≪ひし≫めき合い、様々な種類の機械が唸っている。
「それで、この前あたしに見せてくれた人形、あるでしょう?」
老婆は紅茶の香りを楽しむように、ティーカップをくるくると回しながら、僕の隣に腰かけた。
僕は頷く。
「あの技術を使って、新しいものを作ってみたんだけれども……」
そう言って、老婆は嬉しそうに何やら小さい金属でできた装置を取り出す。
「あの……」
楽しそうな老婆の姿を見ながらも、僕は自分自身がやるべきことを思い出しながら話を始めた。
「なんだね?」
老婆はその装置を手に持ったまま、僕の方を見つめる。
「僕を弟子にしてください!」
すると老婆はニコリとして答えた。
「嫌じゃ。」
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