セルジオとキャサリンがハッスルしているらしい

 悪役令嬢のわたしは クレアと名乗って、ラーズさまやみんなと一緒に剣を探す旅をしている。

 そんな ある日、わたしたちは小さな街の小さな宿に泊まった。

 そして夫婦で わたしたちと一緒に旅しているセルジオさんとキャシーさんが、ちょっと挑戦したいことがあるので、二人だけになりたいと、部屋を取った。

 わたしは二人がなにをするのか分からなかったけど、深くは考えなかった。

 しかし、すぐに理解することになる。

 旅というのはとにかくお金がかかる。

 だから宿は安いところに泊まるのが鉄則だ。

 しかし、安いわけなのだから、防音はされておらず、隣の部屋の声が物凄くよく聞こえる。

 そして、その声が気まずいものであることもあったりする。



 初めはキャシーさんの声。

「オォオォー。イイワー。ダーリン、イイ感じよー」

 次にセルジオさんの声。

「まだ始めたばかりである。フン、フン、フン」

 わたしは変な汗が出始めた。

 この声って、ようするに、なんというか、アレをしている声なのでは。

「ンフー、たまらないわぁん」

「フン、フン、フン」

 いや、落ち着け、わたし。

 これはあれだ、多分別のなにかをしている可能性もなきにしもあらずで。

「オオォウ。この筋肉の動き。良いわよぉん」

「フン、フン、フン」

「オォオウ、揺れが激しくてアタシ落ちちゃいそう」

「おっと、それはいかん。慎重にせねば」

「そうよじっくりよ。これからなんだから、じっくりいくのよ」

「フン、フン、フン」

「オォーウ」

「フン、フン、フン」

「ダーリン、初めっからハイペースだとすぐに終わっちゃうわよ」

「うむ、心得ておる。じっくりとだ」

「オー、イエース、オー、イエース」

「フン! フン! フン!」

「イイワー! イイワヨー!」

「フン! フン! フン! フン! フン!」

 ダメだー!

 どう考えても別の何かになりませんー!

 わたしは枕を顔にかぶせて、耳を塞いだ。

 だけど声が大きくて、それでも聞こえてくる。

「アン、アン、アン」

「フン、フン、フン」

「アン、アン、アン、アン、アン」

「フン、フン、フン、フン、フン」

「アン、アン、アン、アン、アン、アン、アン、アン、アン、アン」

「フン、フン、フン、フン、フン、フン、フン、フン、フン、フン」

「ダーリン! その調子よ! あともう少し! イケルわ! あともうちょっとでイケルわぁ! 出して! 出すのよお!」

「フォオオオオオ!」

「イケル! イケルワァアン!」

「フヌゥウウウン!」

 声が大きすぎる!

 わたしは部屋を飛び出して、二人の部屋へ突入した。

「ちょっと! 二人ともなにしてるんですか! 声が大きすぎますよ!」

 そしてキャシーさんは満面の笑みで、

「クレアちゃん、見て! ダーリンが私を肩車した状態でのスクワット回数新記録を出したの!」

「……え?」

 スクワット?

「ああぁん。ダーリン、スゴォイ。アタシもたぎってきちゃった。フシッ! フシッ!」

 と、キャシーさんもスクワットを始めた。

 でもってセルジオさんが、

「ううむ。ハニーの筋肉の動きの美しさ。マーベラス! 我が輩はますますたぎってきたあ! フン! フン!」

 と、今度は腕立てを始めるセルジオさん。

「……」

 わたしは自分の部屋に戻ると、耳栓をしてさっさと寝ることにした。

 まあ、幸せな夫婦なんだな、と思った。



 おしまい

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

悪役令嬢クリスティーナの冒険 神泉灯 @kamiizumitomo

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ