13・わからんって……

 クロ



 俺たちは地下から古城へ入った。

 出入り口の所に、俺たち猫が通れるほどの小さな隙間があったのは幸運だった。

 地下通路は崩落して、戻る事ができなくなっていたのだ。

 もし、入口も閉ざされていたら、俺たちは閉じ込められてしまっていたところだった。

「アイリーンお姉さん、無事かな?」

 心配しているミケに、シロが答える。

「大丈夫よ。アイリーンの匂いがするでしょう。まだ無事な証拠よ」

 俺は肯定する。

「そのとおりだ。さあ、行くぞ。この匂いを辿れば、アイリーンの所に辿りつける」

 俺たちは城を探索し、階段を上がり、玉座の間と思われる場所に到着した。

 そこにいたのは、アイリーン。

「クロ! シロ! ミケ! 助けに来てくれたの!?」

 感激しているアイリーン。

「当然だろう。俺たち猫は仲間を見捨てない」

 だが、その前にやるべき事があるようだが。

 アイリーンの隣、玉座に座る黒いマントに、生え際が後退し パーマがかかっている長い髪の男。

 その口からは発達した牙が覗いている。

 吸血鬼。

 この臭いの濃さ。

 この吸血鬼が、今回の吸血鬼騒動の大元だ。

 吸血鬼は俺たちを見ると忌々しげに、

「猫め……こんな所にまで入り込んだか。アラメーダはなにをしているのだ? キスはせずに済みそうだが」

 俺は吸血鬼の話していることが理解できず、

「キス? なんの話だ?」

「まあ、キスはどうでもいい。いや、どうでもよくはないのだが どうでもいい。

 それより、貴様らの方が先決だ。

 忌々しい猫どもめ。我ら吸血鬼の宿敵。貴様ら猫を根絶やしにするのが我ら吸血鬼の悲願。私が全ての弱点を克服し、完全なる永遠の命を得た暁には、世界を手中に収め、猫など存在しない世としてくれよう。

 だが その前に、今 目の前にいる貴様らを滅ぼしてくれる。

 言っておくが、私をザコの吸血鬼と一緒にしないことだ。私はランクAに匹敵する。貴様らの爪や牙は私には簡単には通用せぬ」

 ランクAか。

 俺は不敵な笑みを浮かべ、

「確かに、そう豪語するほどの力を感じるな。俺たち猫でも、一撃で灰にするというのは不可能だろう。

 だが、一撃で無理なら、何度でもしてやるさ。何度でも肌を引き裂き、何度でも肉を咬み千切る。おまえが滅ぶまで、何度でもな!」

 吸血鬼は忌々しげに、

「ええい! ニャーだのウーだのフシャーだの、神経に触る鳴き声を上げおって! 声からして気色悪いのだ! 私は人間だった時から猫が嫌いだった! なにを言いたいのかさっぱりわからん!」

 わからんって……

「いや、俺ははっきり言っているだろう。なにが理解できないんだ?」

「これ以上 猫の鳴き声を聞くのは耐えられん! さっさと始末してくれるわ!」



 俺たちは三方向に散った。

 一人の敵に対し、全員正面から突っ込むのは愚の骨頂。

 多方面同時攻撃。

 先ずは相手にダメージを蓄積させる。

 俺は跳躍して、吸血鬼の腕を狙って爪を立てようとした。

 しかし吸血鬼は俺の前足を素手で掴んだ。

 こいつ!

 吸血鬼なのに猫である俺に触って平気な顔をしている!

「俺に触っても平気なのか!」

「私は貴様らに触れただけで灰になる下位吸血鬼とは違うぞ!」

 そして俺を壁に向かって投げつけた。

 俺は身体を捻って壁に着地。

 その瞬間の俺に、吸血鬼が拳を繰り出す。

 俺は壁を足場にして跳躍して回避したが、直前まで俺がいた位置の壁に、吸血鬼の拳が命中して亀裂が入る。

 とてつもない威力の一撃。

 あれを受けたら即死だな。

「クロ!」

「クロお兄さん!」

 シロとミケが吸血鬼の両側から同時に攻撃。

 吸血鬼は腕で薙いで二人を弾いた。

「キャ!」

「ワァッ!」

 地面を転がり、すぐに立つ二人だが、ダメージがあるようだ。

 俺は吸血鬼が二人を攻撃した時の意識の隙を狙って、攻撃を仕掛ける。

 奴の足の脛を爪で狙うが、吸血鬼は蹴りを繰り出して、牽制する。

 俺は跳躍して奴の顔面を引っ掻こうとしたが、吸血鬼は仰け反って回避。

 腕を真横に振るって俺を攻撃。

 俺は奴の腕を足場にして後方へ跳び、威力を殺してダメージを受けない。

 だが、奴は余裕がある。

「フハハハハハ! どうだ!? これが私の力だ! 貴様ら猫はもはや私を滅ぼすことなどできぬ!

 いや、猫だけではない! 全ての者が私の足元にひれ伏すのだ!」



 ミケが吸血鬼に、

「だったら これはどうだ!」

 ミケは吸血鬼の足元を無作為ランダムに走り始めた。

 俺たち猫の敏捷力と瞬発力、そして柔軟性は、動物界に置いて随一。

 吸血鬼はミケの動きについて行けず、翻弄されている。

「この! ちょかまかとうっとうしい!」

 吸血鬼はミケを捕まえようと必死だが、回避に専念しているミケを捕まえられずにいる。

 奴の意識がミケに集中している。

 今だ!

 俺は奴の足首を狙って牙を突き立てた。

「ぐあ!」

 よし!

 攻撃が入った!

 俺は命中すると同時にすぐに退避する。

「おのれぇえ! 猫どもめ!」

 吸血鬼は掌に魔力を集めた。

火炎フレイム円柱ポスト!」

 俺の足元が赤銅色に変わった。

 俺は全力でその場から退避し、次の瞬間 炎の柱が立ち上った。

炎の矢ファイアボルト! 炎の矢! 炎の矢!」

 連続して炎の矢を俺たちに放つ吸血鬼。

 これでは近付く事もできない。

 どうすればいい!?

「ふははははは! これが私の力だ! 貴様ら猫など全て滅ぼしてくれる!」



 突然、玉座の間の扉が勢いよく開いた。

 そこにいるのは、

「みんな! 援軍です!」

「クレア? どうしてここに? それに 後ろにいる奴らは……」

 額から右頬にかけて大きな傷跡がある、野良猫のボスが前に出る。

「よお、クロ野郎。いいザマじゃねえか。

 それにシロ。吸血鬼を狩るんだったら、俺にも声をかけてくれよな」

 そして百匹の野良猫が、玉座の間に殺到する。

「吸血鬼は俺たち猫 全員の獲物だ!」



 百匹の野良猫が吸血鬼に総攻撃を仕掛けた。

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