12・なんて醜い筋肉なの
スファル・ルティス・ドゥナト
俺は鏡水の剣シュピーゲルを、目隠しした吸血刀士に構える。
お嬢さんは、以前こいつと似たような吸血鬼と戦った事があり、こいつは目が見えない代わりに、他の感覚は鋭くなっていると言っていた。
だから、視覚的なフェイントは全て察知されてしまうだろう。
ならば、視覚以外で惑わせればいい。
先ずは小手調べ。
俺は剣戟を三つ繰り出す。
吸血刀士はなんなくそれを受け止め、刀の柄で攻撃を返し、そして斬り上げ、次に振り下ろす。
後ろに下がって回避した俺は、軽く跳躍して上から刀を振り下ろす。
受け止めた吸血剣士。
そこに俺は
双掌打で吸血刀士を吹っ飛ばし、すぐに分身体を消した。
吸血刀士は後ろに転がって衝撃の勢いを殺し、体勢を立て直す。
しかし、今の俺の攻撃に戸惑っているようだ。
敵が一人であるはずなのに、突然 増え、そして消えたのだから。
俺はさらに吸血刀士の頭上に分身体を作り、落下で勢いを付けて真上から刀を振り下ろす。
刀を受け止めた吸血刀士は、分身体の顔に裏拳を繰り出し、それを分身体は右手で受け止め、そこに吸血刀士は横に三度連続、刀を振るう。
だが、その時にはすでに、俺は分身体を消した。
手応えがないことに戸惑う吸血刀士。
そこに俺は吸血刀士の背後に分身体を発生させる。
吸血刀士が後ろを振り返り、分身体の連続攻撃を捌く。
俺から見て背後ががら空きだ。
一直線に疾走し、俺は吸血刀士の胴体を輪切りにする。
さらに、上半身と下半身がまだくっついている間に、縦に一刀両断。
四つに分断された吸血刀士は絶命し、灰になって行く。
「ま、こんなもんだな」
余裕で俺は勝った。
ラーズ・セルヴィス・アスカルト
俺は破滅の剣ベルゼブブを、目隠しした吸血剣士に構える。
この吸血鬼からは魔力がほとんど感じられない。
おそらく魔法が使えないのだ。
そして、武器は同じ剣。
対抗意識を持ってしまった。
正面から剣を繰り出してくる吸血剣士に、俺は横へステップして剣を横に振るう。
剣を受け止めた吸血剣士は、左掌打を繰り出した。
俺はそれを右掌打で迎え打ち、衝撃でお互いに吹き飛ぶ。
着地したと同時に吸血剣士は俺に向かって跳躍し、回転して勢いを付けて剣を振り下ろす。
剣を受け止めた俺に、再び左掌打を繰り出す吸血剣士。
俺は横に回転して回避し、吸血剣士の首を狙って剣を横に振るう。
吸血剣士は思いきり仰け反って回避し、俺の顎を狙って右足を蹴りあげる。
俺はバク転して回避。
吸血剣士も仰け反った勢いでそのまま後ろに回転し、体勢を立て直した。
剣と体術の組み合わせ。
戦い方も俺と似ている。
だが、相手の力量はこれで分かった。
俺は吸血剣士に向かって一直線に疾走し、首元を狙って突く。
吸血剣士は剣先で俺の突きの軌道をずらして防御したが、俺はそのままの勢いで吸血剣士の顔面を殴りつけた。
顔面の骨が陥没する感触が拳に伝わる。
後方に吹っ飛んだ吸血剣士の口に目掛けて俺は剣を投擲。
歯も牙もへし折って、吸血剣士の口内に突き刺さった剣を、俺は間合いを詰めて手の平で、剣の根元まで押し込む。
頭蓋骨と脊髄先端を完全に砕いた。
吸血剣士は痙攣を起こしながら灰になっていった。
クレア
私は業炎の剣ピュリファイアを、女吸血鬼に連続刺突する。
女吸血鬼はそれを回避し、最後の顔面に目掛けて放った突きを、頬まで裂けた口からのぞくサメの様なギザギザの牙で咬んで受け止めた。
なんて咬筋力をしているのよ。
私が強引に引っ張って、剣を女吸血鬼の口から抜こうとすると、女吸血鬼がそれに合わせて剣を口から離したので、私は踏鞴を踏んでしまう。
そこに女吸血鬼は刃の扇子を投擲してきた。
私は横にステップして回避するが、しかし直感が終わっていないと告げていた。
直感に従い地面に伏せた私の頭上を、回避したはずの扇子が通過し、女吸血鬼の手元に戻っていった。
ブーメランと同じ。
地面に伏せていなかったら、首を切断されていた。
女吸血鬼は忌々しげに、
「ちぃっ。もう少しで首を刎ねられたのに」
次は私の番。
「
十の風の刃を女吸血鬼 目掛けて放つ。
女吸血鬼は横へ走って回避し、最後の一発を大きく跳躍して飛び越え、墓の上に着地。
「なんだ今のは!? 同時に魔法を放つだと!?」
女吸血鬼は驚いているみたい。
「カーマイルを倒しただけの事はあるね。油断はできないということか。なら、こいつを使わせてもらうよ」
そういって腰から取り出したのは、一本の注射器。
「それは!?」
まさかカーマイルが使った、弱点を一時的に克服し、身体能力を増強する注射。
「知っているみたいだね。そうさ、これはカーマイルとヴォルディング様が発見した、吸血鬼の弱点を克服し、身体能力を上げる薬さ」
そして首筋に針を刺し、注射する。
女吸血鬼の筋肉が膨張し、衣服が破れる。
キャシーさんがそれを見て、
「なんて醜い筋肉なの」
セルジオさまも、
「薬では美しい筋肉にはならぬと言うのに」
いえ、そういう問題ではないのですが。
「あの、二人は下位吸血鬼をお願いします。あれは私が相手をしますから」
「クレアちゃん、大丈夫なの?」
「大丈夫です。私はカーマイルを倒しましたから」
女吸血鬼が嘲笑する。
「はっ! そんな余裕がいつまで続くかね!」
そして地響きでも起きているのではないかというほどの足音を立てて、私に突進してくる。
私は冷静に、女吸血鬼の身体に連続刺突。
全部命中するが、女吸血鬼は平気な顔で、
「そんな攻撃は通用しないよ!」
私は構わずに攻撃を続けた。
「アッ! グッ! ガッ! だから通用しないと言っただろう!」
私はそれでも構わずに攻撃を続けた。
「ギッ! ビッ! ゲッ! ブッ! ゴァッ! だ、だから攻撃は通用しないと……」
私はとにかく攻撃し続けた。
「アッ!ギッ!ゲッ!グッ!ゴッ!バッ!ゼッ!ベッ!レッ!デェッ!」
まあ、こんなものだろう。
「こ、この小娘がぁ!」
怒りの女吸血鬼に私は、
「
女吸血鬼の心臓に魔法を命中させ、その衝撃で三十メートルほど飛んだ女吸血鬼は、貯水池に落下した。
泡が水面に出ていたが、それも十秒ほどで治まる。
あの注射の問題点。
それは敏捷力を犠牲にしてしまう事。
そして本人はそれに気付かない。
だから攻撃が面白いほど命中する。
カーマイルの時もそれで倒せた。
同じ失敗を女吸血鬼もしたわけだ。
みんなも他の吸血鬼を倒し終え、私たちはアイリーンさんの捜索を始めることにした。
まずは、古城から。
そう考えた時、墓場の入口にぼんやりとした光を宿した眼が見えた。
獰猛な肉食獣の眼が、数え切れないほど無数に。
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