134・わたしはヒロイン!

 なんでわたしが家の手伝いなんかで買い物しなくちゃいけないのよ。

 自動車の免許取ったんだから買い物くらいしろですって。

 まったく。

 しかもこんな安くてダサい中古車だなんて。

 わたしが苦労して五回も試験受けて合格したのに、もっと良い車買ってよね。

 横断歩道を誰かが歩いてる。

 大学生?

 買い物帰りらしく、手に荷物を抱えている。

 ムカついて来た。

 わたしは大学に行くことができなかったのに、呑気に幸せそうな顔をしたブスが、苦労もしないで大学に合格したなんて。

 アクセルを踏み込んでその女を轢いてやった。

 車を降りて叫ぶ。

 大変! 赤信号なのに突然飛び出してきた!



 警察の取り調べを受ける。

 わたしちゃんと信号を確かめて発進したんですー。

 だけど、スマホをしながら渡ってきて、ブレーキが間に合わなかったんですよー。

 きっとゲームやってて気付かなかったんですー。

 えーん、えーん。



 警察は不問にしてくれた。

 当然よね。

 世界で一番可愛い私が赤信号だって言えば、そういうことになるのよ。



 轢いてやった女の両親がわたしを訴えた?

 なに訴えてるのよ?

 このわたしが、働きもしないタダ飯喰らいを世界から掃除してあげたのに、感謝もしないの。

 しかも轢いてやった女、オタクなんだって。

 キモーイ。

 きっと、空想の恋人とデートしてたんだわ。



 裁判で証人に呼ばれたオタクがなんかわけのわからないこと言ってる。

 轢いてやったオタクが好きだったゲームの種類の事とか。

 スマホゲーム? スエオキ?

 ゲームなんてどれも一緒でしょ。

 弁護士がオタクに質問する。

「あなたは友人からミサキチと呼ばれているそうですね」

「はい」

「みなさん聞きましたか!? こんなアニメのような名前で呼ばせているのです! 自分をアニメのキャラと同一視し、空想と現実の区別が付いていない証拠です!」



 わたしは裁判で無罪になった。

 当然よ。

 わたしがこんなに苦労しているのに、キモオタが幸せそうな顔してるからこんなことになるのよ。

 そんなキモオタをわたしは掃除してあげたのよ。

 それなのに訴えてくるなんて。

 ねえ、お父さん、オタクの家族に思い知らせてやってよ。

 興信所にでも依頼して、キモオタ家の周りの人たちに本当の事、教えてあげて。



 アハハハ。

 キモタク家族、みんな仕事、クビになったって。

 わたしを冤罪にしようとしたんだから当然よね。

 それにこれでもうオタク一家はもう二度ととんでもないことするがことできなくなったわ。

 わたしってばなんていいことしたんだろ。

 それで家も滅茶苦茶になって一家離散だって。

 今はアルバイトで低脳にヘコヘコ頭下げながら低賃金で働かされてるって。

 わたしを陥れようとしたんだから当然よね。

 アハハハ。



 会社でお父さんに呼ばれた。

 他の社員が私をクビにしろって訴えてる?

 どういうことよ!? それ!

 業務に支障をきたす!?

 契約が取れてない!

 なんでよ?!

 わたしは一生懸命頑張ってるのよ!

 どうして努力を認めないのよ!

 こんなの間違ってる!

 お父さん、そいつらをクビにしてよー。

 わたしがその分、儲けさせてあげるから。

「だめだ。これだけの社員を解雇すれば会社が傾く。

 おまえは会社を辞めて、婚活しろ」



 お金は持ってなくちゃダメよねー。

 若いイケメンじゃなきゃヤダ。

 こんな脂ぎった臭い中年オヤジ?! ありえないでしょ!

 私が結婚してあげるって言ってるのよ! ありがたく思いなさいよ!



 お見合いの話がもうない?

 なによ、あんなロクでもない男どもしか持ってこないのが悪いんでしょ。

 私は世界で一番可愛いみんなの人気者なのに。



 ヒマねー。

 貯金なくなったのに、お父さん小遣いカットしたからパチンコもできないし。

 みんなお金貸さないんだから。

 老後のためとか言って無駄な貯金して。

 それをわたしが代わりに有効に使ってあげようって言ってるのよ。

 それにパチンコで勝ったら返してあげるわよ。

 なのにみんな断るなんて。

 電話も着信拒否までするなんて。

 世界で一番可愛いわたしがお金を代わりに使ってあげるのよ。

 喜んで欲しいわ。

 なのにサラ金まで車で人をはねた奴は信用できないって言うし。

 わたしは社会に害悪なオタクを掃除してあげたのよ。

 それなのにどいつもこいつも。

 なんかヒマつぶしになることないかなー。

 ゲームでもやろうかな。

 でもゲームなんてやったら、オタクになっちゃうわね。

 あー、でもヒマー。

 なんかいいゲームないかなー。

 ネットで調べてみよ。

 ……あれ? なに? これ?

 ゲームを通じて、真実の愛を伝え、道徳の模範を示します。

 犯罪撲滅とかオタクをなくそうとか言ってる有名な団体じゃない。

 へー、こういうの作ってたんだ。

 やってみようかな。

 きっと素晴らしいゲームに違いないわ。

 だって、公序良俗を掲げる団体が作ったんだもん。

 ゲームのタイトルは?



 ドキドキラブラブ魔法学園プラスマイナス。



 ほーら、やっぱりわたしは間違ってなかった。

 シミュレーションじゃこんなに上手く行くじゃない。

 今までの連中は見る目がなかったのよ。

 妄想の女ばっかり追いかけて、現実のわたしをみてなかったのね。

 ほら、また一人、わたしの虜になった。



「結婚するか もう一度就職してまじめに働くか どっちか選べ!」

 お父さんが怒鳴ってる。

 なによ?

 結婚なんかしなくても別に良いでしょ。

 みんな空想の世界にひたってるオタクばっかりで、現実のわたしの魅力が理解できないのよ。

 わたしは世界一可愛いのに。

「そのブクブクに太ったメタボの身体のなにが魅力だ! 可愛いだと! おまえは一体何歳だと思っている! もう四十歳だぞ!

 もう結婚はいい! おまえは一生結婚できん! 仕事を探せ! アルバイトでも構わん!」

 アルバイト!?

 このわたしがアルバイトですって!

 いやよ!

 無能で臭くてキモイ低脳の下っ端になるなんて!

「なら金はどうするんだ!? 生活するには金が必要なんだぞ! 働きもしないで俺の金で飲み食いしやがって! おまえはニートなんだ!」

 ニートじゃないわよ!

 お金ならたくさんあるんだから!

「おまえの金じゃない! 俺の金だ!」

 親が子供を養うのは当然でしょ!

 子供がお金が欲しいって言ったらポンと出す!

 それが親の務めよ!

「貴っ様ぁあ! おまえは失敗作だ!」

 ちょっと……

 その包丁なによ?

 それで私になにするの?!

「おまえを処分する!」



 ドスッ!



 刺した……

 お父さんが私の胸を包丁で刺した。

 く、苦しい……

 なに?

 胸の鼓動が聞こえない。

 心臓が動いてない。

 心臓が止まったの!?

 いや……死にたくない……

 死にたくない!



 そしてわたしは目覚めた。

 今のは?

 そうだ、前世だ。

 前世の記憶だ。

 そして今のわたしは?

 あ、あ、あ……

 アハハハ。

 アハハハハハ!

 やった!

 やったわ!

 わたしはヒロインよ!

 ヒロインに転生したんだわ!

 わたしはヒロイン!

 リリア・カーティス!

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