106・聖女のわたしが事件を解決できるのよ!

 ノギー村に戻ると、広場でオークが死んでた。

 こんなところに逃げたの。

 村に行けば殺されるって考えなかったのね。

 見るからに頭悪そうだもん。

 みんなー、わたしがオークを退治して上げたわよ。

「おめえなんてことしたんだ!」

 村長が怒鳴ってきた。

 え?

 なに?

 どうして怒ってるの?

「オークに手出しするなって言っただ! それなのにどうして!」

 だから、退治して上げようって。

「そんなこと頼んでねえだ! 村のもんを見ろ! オークにやられて大怪我しちまっただ! これじゃ一生まともに働けねえだ!」

 それはオークのせいでしょ。

 わたしのせいじゃないもん。

「おめえがよけいな事しなけりゃこんなことにはならなかったんだ!」

 さっきからなによ!

 黙って聞いてたら好き勝手言って!

 わたしはキモイ魔物を退治して上げようとしたのよ!

 ありがとうくらい言えないの!?

「冒険者でもねえおまえに退治できるわけねえべや!」

 もう! わからないの?!

 クリスティーナよ。

 あなたたちが救ってくれたって思ってるクレアって女は、クリスティーナって言って、悪役令嬢なの。

 あの女が仕組んだことなのよ。

 全部クリスティーナの企みなの。

「なにわけのわかんねえ事いってるだ! こいつめ!」

 ちょっと、石投げないでよ。

「全部おめえのせいだ!」

「村から出て行け! 疫病神め!」

「とっとと失せろ!」

 ちょっと、やめて。

 やめてったら!



 村人の投石に、リリア・カーティスはたまらず逃げ出した。



 あー、腹立つわね。

 まったく、恩知らずな人間がホント多いわ。

 聖女のこのわたしがキモブタを退治して上げたのに。

 いつか、あの村の人間全員オタク更生施設に入れないといけないわね。

 そうよ、聖女のわたしが魔王を倒せば、みんなわたしを崇拝する。

 そうなれば、オルドレン王国でやった政策を、全世界で実施させることができるわ。

 キモオタは全員死ぬまで閉じ込めておかないと。

 それにしてもあの悪役令嬢、いったいどこまでシナリオを進めてるの?

 人狼部隊って言えば、ゲームの初盤の最後に登場するはず。

 だとしたら、今クリスティーナはどのあたりにいるのかしら?

 そういえば、アドラ王国で悪役令嬢を見たって、ジルドが言ってたわね。

 そこに行ってみましょ。



 アドラ王国に到着したわたしはさっそく調査に取り掛かった。

 ジョルノ曲芸団サーカスで殺人事件が起きたはずなんだけど、話を聞いてみると、団長は死んでないっていうのよ。

 悪役令嬢の奴、そんな所までシナリオを変えたのね。

 でも大したことじゃないわ。

 シナリオを変えたりしたから悪役令嬢に事件を解決できなかったでしょ。

 わたしは事件を調査してた衛兵隊長と、一緒に調査したっていう探偵と医者に説明して上げる。

 事件の真相をね。

 ふふん、どう、ビックリしたでしょ。

 わたしにかかれば、こんな事件、簡単に解決できるのよ。

「全然 違う」

 衛兵隊長がわたしの説明を否定した。

 なに言ってるよの!?

 これが事件の真相なの!

「事件はもう解決したんだよ。僕の活躍によって」

 貴族のくせに探偵をしている男が言う。

「君の手柄じゃないだろ」

 と医者が言うと衛兵隊長が、

「はっはっはっ、細かいことはいいではありませんか。あの時のみなさん全員のおかげで、真犯人が分かり事件が解決したということですよ」

「それにしても、あの麗しいお嬢さんならいい探偵に慣れると思うのだがね」

「冒険者をやっているから十分だろう」

 あなたたち、あの女を誤解してるわ。

 あの女に事件を解決できるはずがないの。

 衛兵隊長が、

「なにを言ってるんだね、君は? 彼女は実際に事件を解決したではないか」

 それは、だから……そう、トリックよ。

 なにかトリックを使ったに違いないわ。

「どんなトリックだね?」

 それは……もう、そんなことどうでもいいでしょ。

 あの女に事件を解決するなんて出来るはずがないのよ。

「君はなにを言ってるんだ? 彼女たちは事件を解決して見せたんだ」

 もう! どうして分からないの?!

 あの女は悪役令嬢なの!

 わたしは聖女よ!

「悪役令嬢? 聖女? なんのことでしょうか? 男爵は推理できますか?」

「僕でもさすがにわからない。なにを言っているんだ? この娘は」

「あー、君、ちょっと僕の診察を受けないか」

 もういいわ!

 あなたたちとは話してらんない!



 ジョルノ曲芸団はアドラ王国建国祭が終わって次の街へ移っていた。

 わたしはそこへ行って調査をする。

「マーロウ、どうだね? 空中ブランコトラピーズの練習は」

「良い感じだよ、団長。この分だと予定より早くお披露目できそうだね」

「ハッハッハッ、よしよし、いいぞ。空中ブランコを魅せれば、観客は大きく盛り上がることだろう」

 あれが曲芸団長。

 みるからに女好きのスケベ親父って感じね。

 話をしてる道化師ピエロがマーロウかしら。

「団長、新しく雇った会計士はどんな感じだい?」

「うむ、実によく働いてくれる。細かいところも綺麗にまとめて報告してくれし、実に優秀だ。

 それに魔法が使えるのも良い。氷を作るのをどうしようか悩んでいたところだったしな。新しい商品も作ってくれた」

アイスキャンディーだね。あれ、とっても美味しかったよ。お客さんにも大好評だよ」

「いやあ、実は私もあれが好きでね。おかげで体重がまた少し増えてしまったよ。ハッハッハッ」

 こいつが生きてるから。

 団長が死んで殺人事件に成らなかったから、悪役令嬢でも解決できたんだわ。

 ちゃんと死んでいれば。

 ちゃんと死ねば、聖女のわたしが事件を解決できるのよ!

「団長! 危ない!」

 道化師ピエロが団長を押しのけた。

「マーロウ!? マーロウが刺された! 誰か! 誰か来てくれ!」

 もう、なにやってるのよ!?

 あなたの無実を晴らしてあげようとしてるのに!

 まあ、いいわ。

 早くこのメタボのスケベ親父を死なせてちゃんと殺人事件にしないと。

「マーロウ! エロデブ!」

 筋肉質の大男が巨大な鉄球をわたしに投げてきた。

 慌ててそれをわたしはよける。

「テメェ! なにしてやがんだ!」

 大男はわたしに色んなものを投げ付けてくる。

 ちょっと! なにするのよ!? 危ないじゃない!

「マーガレット! ユスタス! マーロウとエロデブを!」

「わかったわ、兄さん」

「うわわわ。マーロウさんが!」

 大男が色んなものを投げ付けてくるから、わたしはたまらずにその場から逃げた。

 もう! どうして逃げなきゃいけないのよ!?

 わたしは事件を解決して上げようとしてるのに!



 曲芸団から離れたわたしは考える。

 こんなことじゃだめだわ。

 悪役令嬢の後を追いかけるだけじゃ。

 先回りして待ち伏せしないと。

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