43・これで上手くいくといいのだけど

 アドラ王国建国祭での集客を狙って、ジョルノ曲芸団サーカスが街外れの広場で巨大天幕テントを張っている。

 ゲームでは、このジョルノ曲芸団で殺人事件が発生する。

 ジャンル的にはアクションRPGなんだけど、このイベントだけミステリーアドベンチャー風になっている。

 プレイヤーは曲芸団員や観客などから情報収集し、証言や証拠を集め、犯人を突き止め、事件を解決する。

 すると、世界一の鍛冶師 ムドゥマへの紹介状を入手できる。

 でも私は人が死ぬのを黙って見ているつもりはなかった。

 これはゲームじゃない。

 現実だ。

 そのため、アイリーンさまの館に滞在している間も、曲芸団の情報収集をみんなに頼んでおいた。

 アイリーンさまの喉を治すために、カーマイルの城へ行ったため 一時 中断になったけど、戻ってからすぐに調査を再開した。

 先ずは、その情報を確認する。

 ラーズさまからの報告。

「君が言っていた通り、ジョルノ曲芸団の団長コックスと、花形道化師ピエロマーロウは最近対立しているそうだ」

 観客にもっと過激なショーを魅せようと主張するコックス団長と、安全面を熟慮するべきだと主張する花形道化師マーロウは、意見の食い違いから対立している。

 ゲームの通りだ。

 次にスファルさまの報告。

「会計士のモランが賭博場カジノに出入りしていているのを確認したぜ」

 ゲームでは、ジョルノ曲芸団会計士モランは賭博にはまって、その遊ぶ金欲しさに曲芸団の売上を横領していた。

 となると、事件の真相もゲームと同じ可能性が高まった。

 セルジオさまとキャシーさんの調査報告。

「簡単なものではあるが、これが曲芸団が開催されている場所の見取り図である」

 キャシーさんが指を差して、

「ここがコックス団長の簡易小屋よ」

 曲芸団員の寝泊まりや物置などの、天幕テントや簡易小屋が並んでいる端の所に、コックス団長の簡易小屋がある。

 放っておけば、ここで殺人事件が起こってしまう。

「では、ラーズさまはマーロウを見張っていてください。スファルさまはモランを。セルジオさまとキャシーさんはコックス団長を。私はコックス団長の簡易小屋とその周囲を見張りましょう」



 ゲームにおける殺人事件の犯人は、会計士のモランだ。

 曲芸団の売り上げを横領しているモランは、そのことをコックス団長に気付かれた。

 証拠を押さえられてしまうと、衛兵に突き出されると思ったモランは、短絡的にコックスを殺害する。

 その罪を花形道化師マーロウになすりつけた。

 動機はコックス団長との対立とされ、衛兵はモランの言葉を信じ、マーロウを捕らえる。

 しかし、曲芸団員一同はマーロウの無実を信じた。

 安全第一を考えてショーを行っていたマーロウが、人の命を奪うはずがないと。

 そして冒険者組合に、マーロウの冤罪を晴らして欲しいと、依頼を出した。

 依頼を受けたプレイヤーは、証言を集め、マーロウのアリバイを証明する。

 マーロウのアリバイは、手品マジックにあった。

 魔法を使わない手品は、魔力が探知されないにもかかわらず、幻想イリュージョンを引き起こすことで、この世界でも人気がある。

 コックス殺害時間、マーロウは人間が入ることのできる大きな箱の中に入り、観客の目の中、出入り口がないにもかかわらず、その箱から姿を消すという手品を観客に魅せていた。

 モランは、マーロウが箱の中から姿を消した直後、コックス団長を殺害したと衛兵に主張した。

 だが、それは不可能なのだ。

 なぜなら、マーロウは箱の中から出ていないのだから。

 鏡の仕掛けトリック

 箱の中に同じ寸法の鏡を四十五度に設置する。

 そして箱の正面を開けると、鏡の反射の関係で、箱の中には誰もおらず空っぽのように見える。

 しかし実際は、箱の中に入った人は、鏡の裏側に隠れているだけなのだ。

 つまり、ショーが行われている最中、箱の中から出るわけにはいかないマーロウに、コックス団長を殺害する時間はなかった。

 マーロウが犯人と主張したモランの証言は崩れた。

 プレイヤーの疑いはモランに向けられる。

 モランはなぜ嘘の証言をしたのか。

 調査が進むと、モランは曲芸団が興業する街の賭博場に、毎日のように出入りしていることが判明する。

 しかし、そんな金が会計士にすぎないモランがどこから出せるのか。

 それは曲芸団の売り上げから横領して作っていたのだ。

 そしてモランのアリバイは賭博場で働いている女性がしていた。

 だが、モランは賭博場で働いている女性に金を渡し、嘘の証言をさせていた。

 女性は普通の観客として来たと称し、モランはその女性に、曲芸団が普段どんな風に生活しているか、見学案内していたと。

 だが、その場所、その時間、そこには誰もいなかったことが、曲芸団員の証言から明らかになる。

 なぜ嘘を付いているのか、女性に問い詰めた結果、モランに金で頼まれたことを白状する。

 さらに調査を進め、曲芸団員の証言を基にモランの行動を再現し、モランが事件当日入った小道具小屋で、隠されていた凶器を発見する。

 凶器は投擲短剣スローイングダガー

 大きな的の前に人を立たせ、その人間の周囲に、ほんの微かな差で短剣を次々と投げていくショー。

 それを凶器に使ったのだ。

 血は拭き取られていたが、微かに残る血の匂いを、感覚拡大センスアップの魔法で嗅ぎ取る。

 そして、指紋検査。

 この世界でも指紋の重要性は認識されており、鑑識させた結果、モランと一致。

 アリバイの崩壊と、凶器から検出された指紋を前に、モランは敗北とコックス団長殺害の罪を認める。

 これが、ゲームでの基本的な流れだ。

 でも、私はこの流れ通りにさせるつもりはない。

 人が殺されるのを黙って見ているつもりなどない。

 たとえ鍛冶師ムドゥマの紹介状が手に入らなくても。

 しかし、現実ではゲーム通りに進んではいないのだ。

 なにが起こるか分からない今、事件を未然に防ぐことができるだろうか。



 一応の手は打った。

 ラーズさまに花形道化師マーロウを見張って貰い、アリバイの証言をしてもらう。

 スファルさまは会計士モランを見張って貰い、凶器の入手や、誰といたのか、それとも誰ともいなかったのかなどの、アリバイを証言してもらう。

 そして、もっとも危険な立場にいるコックス団長には、セルジオさまとキャシーさんの二人に張り付いていただく。

 私は事件現場となるだろう、簡易小屋を張り込む。

 これで上手くいくといいのだけど。



 曲芸団の巨大天幕の北側に、曲芸団員が生活する区画エリアがある。

 私は曲芸団員に見つからないよう、天幕の陰に隠れて、コックス団長の簡易小屋を窺う。

 ゲームの日時では、建国祭が始まってから三日目の今日が事件発生日だった。

 正直言うと、ここはゲーム通りに進んで欲しい。

 毎日、見張ることは無理だからだ。

 曲芸団の居住区は一応、部外者立ち入り禁止となっている。

 今日一日だけなら、曲芸団員の目を誤魔化せるかもしれないけど、毎日となると不可能だろう。

 そして、現行犯で押さえれば、調査や推理する必要もなく、殺人事件を防ぐことができる。

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