39・この変態!
城の二階右側は談話室となっている。
上がってみて、実際ゲームの通りだった。
暖炉があり、テーブルとソファーが並んでいる。
かつては兵士が休息を取っていた場所。
カーマイルの姿はない。
玄関大広間に続く扉を開けようとしたけど、ここも鍵がかかっていた。
カーマイルが鍵をかけたのだろうか?
でなければ、カーマイルの姿がないことに説明がつかない。
出入り口となる扉は、一つしかないのだから。
となると、私は閉じ込められた事になる。
どうしよう?
私は鍵となるものを捜すことにした。
ふと、私は部屋の奥の壁の端がおかしいことに気づく。
少し出っ張っているような。
松明の明りでよく見ると、確かに出っ張っている。
指をかけて引いてみると簡単に動いた。
隠し扉だ。
こんな場所があるなんて。
これは現実とゲームの差異なのか、それともゲームでもあったけど、私が知らなかっただけなのか。
とにかく、私は三階へ上がることにした。
三階はゲームでは
でも 階段を上がってみれば 細い通路があるだけ。
奥に階段がある。
隠し通路。
壁を調べて、隠し扉がないか探してみるけど、それらしいものは見当たらない。
ここからもラーズさまたちと合流できそうな経路は見つからなかった。
四階はゲームでは研究室だった。
でも、ここも三階と同じ細い隠し通路で、奥に四階へ続く階段がある。
ここの壁でも隠し扉を見つけることはできなかったので、私は最上階の五階へ上がることにした。
五階に上がった。
カーマイ・ロザボスイが玉座の前に立っている。
装飾の付いた小さな箱を大事そうに抱えていたが、それを玉座の脇にある小さなテーブルに置いた。
「吸血魔猿を倒したか。やはり、貴様はあの女が言っていた聖女」
また私の事を聖女と言った。
「私が聖女とはどういう意味です?」
「とぼけるな! 私の研究成果を奪いに来たのだろう!
あの女が言っていたとおりだ。女神の神託を受けた者が現れると。正直、半信半疑だったが、今は信じるしかない。私の目の前にいるのだからな。
敵である私に警告しなければならないほどの脅威。だが、あの女にとって脅威となるならば、私にとっても脅威になる。あの女の思惑に乗るのは苛立たしいが、貴様は私が自ら始末する!」
「あの女とはいったい誰のことです!?」
「バルザックだ! 魔王を僭称するあの女が貴様の事を警告しに来たのだ!」
女!?
ゲームじゃ魔王バルザックは男だった。
現実じゃ女だっていうの?
それに、敵対しているはずのカーマイルに、私の事を教えたっていうのもどういうことなの?
いえ、違う。
教えたのは聖女の事だ。
カーマイルは私を聖女だと早とちりしてるんだ。
でも、それじゃ魔王バルザックは、女神の神託を受けた聖女が現れるかもしれなかった事を知っているってこと?
いったい、どうして?
「貴様は侮れん。これを使わせてもらうぞ」
カーマイルは懐から一本の注射器を取り出し、それを自分の首に刺した。
「ククククク……喜べ、私の研究成果をその目で見られるのだからな」
カーマイルの筋肉が膨張し、衣服が破れる。
「なにを打ったの!?」
「研究成果だと言っただろう。弱点を一時的にだが克服し、さらに身体能力を向上させることができる。今の私はランクSに匹敵する!」
ランクS。
うん。
無理。
私じゃいくら頑張っても倒せそうにない。
あかん、詰んでしもうてんねん、って怪しい関西弁も使いたくなる。
逃げ道は、四階への階段が二つ。
私はその位置を確認して、カーマイルの隙を突いて逃げる算段を立てる。
しかし、
「逃がさん!」
カーマイルが玉座の釦を押すと、階段のところに鉄格子が下りた。
しかも両方とも。
完全に逃げ道を塞がれた。
「貴様はここで始末してくれる。……いや、待てよ。おお、良いことを思いついた。貴様を始末するのは容易い。しかし、それでは面白くない」
カーマイルは嗜虐的な笑みを浮かべ、
「貴様を実験体に使ってやろう。女神の神託を受けた聖女だ。その聖なる力を解明すれば、弱点を克服する糸口になるだろう。頭からつま先までじっくり調べてやる。喜べ、この私が完全なる不死となり世界を支配する礎となるのだからな」
「喜ぶわけないでしょ! この変態!」
私は
「
私は細剣に火の魔法をかけた。
続けて、
「
自分の身体能力を向上させる魔法を使った。
合成せずに、魔法を同時に使うだけだけど、戦闘で得られる優位性は計り知れない。
これでラーズさまが来るまで持ちこたえて見せる。
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