36・食わずに捨ててやるぅ
「エグ、エグ……」
「ほらほら、スファル様。泣かない、泣かない」
「ううぅ……カワイコちゃんだと思ったのに……両手に花だと思ったのに……」
「仕方ないですね。本当はダーリンしかダメなんですけど、特別にアタシの腕の筋肉、触ってもいいですよ」
「……いらない」
ラーズは当分、役に立ちそうにないスファルを放って置いて、部屋を調査する。
ベッドが二つあり、その脇にテーブルが一つずつ置いてある。
ベッドの一つには二体の淫魔の死体。
壁には大きめの絵画がかけられている。
まさか、この裏に隠し金庫があるなんて、誰にでも想像できるような、単純で簡単すぎるなんてことないだろうな。
そう思いながらも、ラーズは絵画を外してみる。
「おお、隠し金庫ですな」
「……」
本当にあった。
当然、暗証番号は分からない。
「……グスッ、グスッ。どいてくれ。俺がやる」
まだ半泣き状態だが、スファルが前に出る。
「開けられるのか?」
「国の諜報部で基本的な訓練は受けた。これくらいなら開けられる」
そしてスファルはハンカチで涙を拭うと、次に鼻をかむ。
「ブビビビビビッ」
ハンカチを見る。
ハンカチを捨てた。
どうやら洗って使おうと思いたくなくなるほど出たらしい。
「じゃあ、静かにしててくれ」
スファルは金庫に耳を当てると、円形数字盤を回し始めた。
カチカチカチカチカチ……
小さな金属音が聞こえる。
スファルは回すのを一度止めた。
そして反対に回し始める。
再び小さな金属音。
回すのを止め、反対に回し始める。
それを後、二回繰り返し、スファルは耳を金庫から離した。
取っ手に手をかけ、引く。
「開いたぞ」
中に入っていたのは、金属で出来た六角形の紋章。盾が象られている。
ラーズはすぐにこれがなにか分かった。
「一階の階段裏にあった、両扉の鍵か」
キャサリンが同じ形の、剣を象ったものを見せる。
「ラーズ様。それでしたら アタシも見つけました」
「よし。これであの扉を開けられそうだな」
四人は一階へ戻ることにした。
玄関大広間にある階段裏の両扉に、ラーズたち四人は戻った。
早速、六角形の窪みに見つけた紋章を嵌め込む。
金属音が鳴り、扉が半分ほど自然に開いた。
「正解でしたな」
扉の先は階段だった。
一行は階段を上がって行き、奥の両扉に辿りつく。
階段の長さを感覚で測ってみても、明らかに二階ではなく、三階に直接つながっていたようだ。
扉に鍵はかかっていない。
「みんな、いいか。カーマイルは直接的な手段ではなく、間接的な手段で俺たちを始末しようとした。この先も、どんな罠が待ち受けているか分からない。十分注意してくれ」
セルジオとキャサリンは頷く。
そしてスファルは歯ぎしりしながら、
「チクショウ、チクショウ……カーマイルの奴、男の夢を踏みにじりやがって。刻んで 焼いて 炒めて 煮て 茹でて 蒸して 食わずに捨ててやるぅ」
ちゃんと聞いているのかどうか怪しいが、やる気だけは増しているようなので、良しとする。
三階は家具の類は一切ない殺風景な造りだった。
壁で仕切られていないので広く、天井は高く、城を支える主柱が四つある。
下の階では柱は壁と同化させて目立たなくしてあったが、ここには内壁がないので剥き出しになっている。
そして奥に四階へ続くと思われる階段。
その両脇に、二メートルを超える人型の石像が二体。
スファルが、
「お嬢さんの説明通りなら、こいつらは
石像兵。冒険者組合のランクではBに分類されている。
防御力と攻撃力が高く、生半可な攻撃は通用せず、逆に石像兵の一撃は人間を簡単に潰す。
動きは鈍重なので注意していれば回避できるらしいが、石像兵は防御力の高さを活かして、攻撃を回避せずに攻撃を繰り出してくるので、慎重に対応しなければならない。
「吾輩の出番でありますな」
そう言って、セルジオは背負っていた大槌を構える。
クレアの説明では、石像兵は骸骨兵と同じ、打撃が効果的だという。
そのために、ゴドフリーに大槌を用意してもらったと。
そして、石像兵には刃物はほとんど通用しないと言う。
普通に考えて、石の塊など、例え魔法剣であっても、質量の関係で斬ることなどできない
下手に斬ろうとすれば、剣の方が折れてしまうだろう。
石像兵を倒すには、完全に破壊するか、その体に蓄積されている魔力が尽きるまで待つか、もしくは魔法の核を破壊しなければならない。
当然、どれも困難だ。
石で出来ているので防御力が高く、完全に破壊するには、それに見合った強力な攻撃をしなければならない。
しかし、下手にそんな高威力の魔法攻撃を仕掛ければ、城にまで影響が出かねない。
魔力が尽きるまで待つのも時間がかかるだろうし、長時間、戦っていては思わぬ失敗をして、攻撃を受けてしまう可能性がある。
となると、石像を動かす魔法の核となっている個所を破壊するのが一番良い。
クレアは、額に魔法文字が刻まれてあればそれだと言っていたが、事前知識が色々異なっていることから、カーマイルの石像兵の弱点も異なっている可能性があるとも言っていた。
そして見る限りでは、石像兵の額に文字は刻まれていない。
キャサリンがラーズに、
「どうします? 動いていない今のうちが好機です。クレアちゃんの言ってた通りに額を破壊してみますか?」
「そうだな。まずは試してみよう。セルジオ、頼む」
「お任せくだされ」
セルジオは大槌を構えて、石像へ足を進めた。
二体の石像兵の眼に、赤い光が灯った。
そしてその体が動き出す。
緩慢にだが、一歩踏み出すごとに、振動が伝わってくる。
それだけで床が抜けてしまいそうだ。
スファルが、
「まずいな。接近したら動きだすようになってたんだ」
セルジオは石像兵が動き出したことに構わず、その額に大槌を叩きつける。
「ぬぅん!」
大槌によって、額が割れる石像兵。
しかし、その動きは止まらず、セルジオに拳を繰り出す。
「ぬおっ!」
慌てて回避するセルジオ。
どうやら魔法の核は額にはなかった。
クレアの知識が外れたとなると、どこにあるのか見当もつかない。
ならば次の作戦は、魔力が切れるまで戦い続けるか、完全に破壊するかのどちらかだ。
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