21・私は私の新しい人生を歩まないとね
ラーズさまと
そして、体が二つに分断され 横たわる白剣歯虎の体が朧に輝き始めた。
「まだ生きているのか?!」
ラーズさまは身構える。
「大丈夫です、ラーズさま。これで良いのです」
私は神殿に再び入ると、ラーズさまの緊張を解く。
「良く見ていてください」
私が白剣歯虎を示すと、その体が粒子となり崩れ始めた。
そして、風に吹かれて散ると、そこに残されたのは、一振りの剣。
柄に緑の宝玉が埋め込まれている以外は、なんの変哲もない剣だ。
「これって?」
キャシーさんの疑念の声。
「それが、疾風の剣サイクロンです」
ラーズさまがその剣を拾って掲げて見る。
「白剣歯虎は、疾風の剣サイクロンの化身だったのです。剣の力が白剣歯虎の姿となり、剣自身が剣その物を守っていたのです」
「ぬう、剣が意思を持って姿を変えるとは。不思議なこともあるものよ」
セルジオさまの驚嘆の声。
「疾風の剣サイクロンには敏捷力に補正をかける効果があります。つまり、剣の使用者は普段より素早く動けるということです」
ゲームでは戦闘中の移動速度が上がり、一度で二回連続攻撃できるという効果で表されていた。
ラーズさまは期待に満ちた目で、疾風の剣サイクロンを見つめている。
「それだけの力がある剣ならば、きっと俺の魔力に耐えられるだろう」
そして一声、呪文を唱えた。
「
ラーズさまの膨大な魔力が、疾風の剣サイクロンに流れ込んでいく。
剣が闇色に輝き始めた。
「いける。これなら、いける」
ラーズさまは歓喜の声。
その声に応えたのは、剣に罅が入る金属音。
「ラーズさま!」
私は制止の声を上げた。
すぐにラーズさまは魔力を注ぐのを止めた。
「くそ! これも駄目なのか」
ラーズさまは落胆する。
疾風の剣サイクロンでもダメだったなんて。
ラーズさまは本当に、いったいどれだけの魔力を持っているの。
でも、これで可能性は一気に減ったことになる。
「この剣も耐えられないとなると、業炎の剣ピュリファイアも、大地の剣ディフェンダーもダメだと思います。こうなると、あの剣を打ってもらうしか、望みはありません」
「あの剣?」
「
ラムール王朝冒険者支部に戻った私たちは、支部長に調査報告をする。
「
支部長は驚いている。
ただの調査に行ったラーズさまたちが、古代都市ガラモを支配していた
それに白剣歯虎はランクSだ。
いくら剣を使わない最強の剣士であるラーズさまでも、まだランクC。
そんな低いランクで倒せるはずがないと思っているのかもしれない。
しかし、それを保証する人が二人。
セルジオさまとキャシーさん。
「
「アタシも証言いたしますわ。ラーズさまが白剣歯虎を倒すところを、この眼で確かに見届けました」
冒険者としてだけではなく、聖堂騎士としての身分もある二人の証言は、支部長も納得するしかない。
「わかった。とりあえず、ガラモに他の冒険者を向かわせ、調査させることにしよう。
それと、君たちのランクについてだが、本部に報告して上げるよう交渉しておく。なにせ、ガラモの
そして、本部との魔法通信による交渉の結果、私たちはランクが一つ上がることになる。
ラーズさまはランクBに。
セルジオさまとキャシーさんはランクCに。
そして私は、冒険者として一人前と認められる、ランクDに。
「君たちがドゥナト王国支部で報告していた魔王の件だが……」
他の冒険者たちが魔王の配下を倒すなどをして調査し、その動向を掴み、魔王復活が確定事項として、各国に報告されたそうだ。
その結果、各国でそれぞれ調査隊や討伐隊を編成することで魔王軍の対応にあたることになり、そして魔王バルザック本人に対しては、冒険者組合 最高にして最強の
存在が噂だけされていたランクSSの冒険者。
現在もその人物たちの正体は秘匿されている。
魔王に知られると暗殺などの手段を取られる可能性があるとして。
各国の上層部の協力を取り付けるための方法はあるそうで、それをもとに国々を回るということらしい。
その方法がなんなのかは当然、教えてもらえなかったのでわからないけれど、国王や側近クラスでないと知らない、秘密の合言葉や紋章の類いだと思う。
ゲームでも、主役たちは各国の王などの上層部とすんなり面会できたのも、そういった裏設定があったのかもしれない。
ともあれ、これで魔王の方は解決したも同然。
ランクSSの冒険者の活躍は噂で聞いた程度だけど、それは凄まじいものだと言う。
ランクCの
ランクBの戦鬼や闘鬼、妖鬼などの
ランクSの
そのランクSSの冒険者とその仲間なら、必ず魔王を倒してくれるだろう。
リリア・カーティスが魔王を討伐する必要はなくなったも同然。
これでゲーム通りに話が進まなくても安心だ。
それとなく支部長に探りを入れてみたけど、あのリリア・カーティスは、魔王バルザックが復活しているというのに、いまだに神託を受けておらず、旅立ってもいないという。
あの女は魔法学園での出来事をゲームのドキラブ学園の通りに進めた。
となると、続編であるドキラブ学園2の出来事も、現実でそのまま進めようとしていると考えて間違いはないと思う。
だけど、あのリリア・カーティスが神託を受けるとはとても思えないし、ラーズさまも魔王バルザックもゲームとは違う行動をとっているのなら、なおさらだろう。
そして、あの女より先にランクSSの冒険者たちが魔王バルザックを倒せば、リリア・カーティスは女神から神託を受けることはなくなる。
あれ?
なんだか知らないうちに仕返しできている?
魔王の世界侵略は、ゲームの時間より一年以上は早く始まっている。
そしてリリア・カーティスが女神の神託を受けなければ、魔王退治の旅に出ることもなく、その間に他の冒険者が魔王を倒せば、必然的にあの女が神託を受けることは永久になくなり、結果、聖女になることは永遠にない。
私が冒険者組合に魔王バルザック復活のことを知らせたおかげで、リリア・カーティスは聖女になれない。
あの女はゲーム通りに事を進められなくなる。
うん。
やりぃ。
殺されそうになった割には安っぽい仕返しだけど、まあ これくらいで勘弁しておこう。
あんまり恨み続けるのもアレだし、人を呪わば穴二つって言うし。
あんな女なんか忘れて、私は私の新しい人生を歩まないとね。
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