14・ハァーイ

 ラーズさまが人狼の一体に向かって跳躍し、鋭い跳び蹴りを放った。

 命中した胸当てがへこむほどの威力で、肉と骨が潰れる嫌な音がして、人狼が吹き飛んだ。

 続けて周囲の人狼、三体の腹部を横に走りながら拳を連撃。

 三体の人狼が体をくの字に曲げて吐血し倒れた。

「さて、試してみるか」

 ラーズさまは一言呟くと、呪文を唱えた。

空間斬撃スペースカッター・連」

 空間そのものに隙間を作り、物理法則による結合を無視して、物質を切断する闇の中級魔法。

 それを同時に行い、八人の人狼を一気に倒した。

 今の魔法はなに?!

 魔法を同時に使うなんて聞いたことがなかった。

 私が驚いていると、ラーズさまが、

「君の合成魔法をヒントに考えた。ぶっつけ本番だったが、上手くいったようだ」

 後で聞いたのだけど、私が二つの魔法を合成していることは、魔法を二つ同時に使っていることと同じだと考え、ならば一つの系統の魔法でも同時行使が可能ではないだろうかと考えたそうだ。

 でも二つどころじゃない。

 八つ同時に行使している。



 ラーズさまが人狼を簡単に倒したことで、他の人狼が明らかに怯んだ。

「こいつ魔法を使うぞ!」

「女を狙え! 人質にするんだ!」

 私に向かって人狼が六体、向って来た。

 でも私は慌てなかった。

火炎フレイム竜巻トルネード!」

 効果範囲に入った六体の人狼を、丸コゲにしてやった。

「こいつも魔法使いか!」

「今のはなんだ!? 炎を纏った竜巻だと!」

 カルロが馬から降りて抜剣する。

「落ちつけい! その男は俺が相手をする! おまえたちは遠距離から女を仕留めろ!」

 その指示に従い、弓を構える人狼たち。

 まずい。

 飛んでくる矢を防御する魔法を私は使えないし、あの数では単純に回避することもできない。

 私は慄然としたが、

「「プギャ!!」」

 二匹の人狼のカエルが潰れたような声で、中断された。

 弓を構えていた人狼たちの背後に何者かがいた。

 大柄な人狼よりも、さらに大柄な男性。

 白銀の全身金属鎧フルプレートメイルを着こんだ大男が、それぞれの拳で二匹の人狼の頭を同時に叩き潰したのだ。

 大男はさらに、弓を持っている人狼の腕を掴むと、ハンマー投げのように大きく振りかぶって、

「ぬぅうん!」

 投げ飛ばした。

 十数メートル飛んだ人狼が、別の人狼に命中し、グシャリと骨と内臓が潰れる音が、私のところまで聞こえた。

「新手だ!」

 人狼たちがその大男に向かって武器を向ける。

 しかし、その人狼たちの腕が次々と斬り落とされる。

「ハァーイ」

 白銀色の軽装の甲冑を着こんだ黒い肌をした女性が、ラーズさま並みの速度で疾走しながら剣を振るっていた。

 一体何者なの!?

 私が驚いていると、二人は大きな声で自己紹介した。

「吾輩はセルジオ!」

「アタシはキャサリンよ」

「ラーズ・セルヴィス・アスカルト殿下と見受けた! 微力ながら助太刀致す!」

 良く分からなかったけど、加勢してくれるみたいだった。



 セルジオとキャサリンと名乗った二人は、それはもう強かった。

 全身金属鎧によって生半可な攻撃などものともせず、大剣グレートソードを力任せに振るい、人狼を次々と薙ぎ倒していくセルジオさま。

 人狼以上の素早さで、次々と仕留めていくキャサリンさま。

 当然、ラーズさまも負けてはいない。

 いや、寧ろ人狼を倒した数では、二人よりも多かった。

 私も負けていられないと、

飛礫ストーン突風ブラスト! 飛礫突風! 飛礫突風!」

 地道に人狼に一体々々、ダメージを与えていた。



「おのれ! たかが人間如きにここまで手こずるとは!」

 カルロが激昂して、ラーズさまに向かって剣を振るう。

 でも、その速度も技の錬度も、ヴィラハドラに比べれば明らかに劣る。

「ガフッ!」

 カウンターでラーズさまの拳がカルロの顎に命中し、牙が数本折れる。

 続けてラーズさまはボディーブローを連打し、内臓破裂でも起こしたのか、カルロは血を吐き、膝をついた。

「こ、こんな馬鹿な。人間如きに……」

「とどめだ」

 ラーズさまは手刀を掲げたが、私はそれを止めた。

「待ってください、ラーズさま。カルロには聞きたいことがあります」

「聞きたいこと?」

「カルロ、バルザックについて教えないさい。魔王バルザックはどうなっているのです? すでに復活しているのですか?」

「なぜそのことを知っている!?」

 当りだ。

 魔王バルザックはゲームの時間より少なくとも一年以上早く封印から解き放たれている。

「四人とも動くな!」

 人狼の一人が私たちに向かって叫んだ。

 見ると、腕に十歳くらいの女の子を抱えている。

「おっかぁー」

 泣いて母に助けを求める女の子。

「こいつがどうなってもいいのか!? このガキを殺されたくなかったら一歩も動くんじゃねえ!」

 やっぱり人質を取った。

 魔物らしいやり方だ。

「ぬう、卑怯な。それでも武人か!?」

 全身金属鎧の男性がその人狼を非難する。

 魔物に武人としての矜持プライドを期待しても無駄だと思った。

 でも私は慌てなかった。

 女の子を人質にしている人狼の胸から、刃の切っ先が現れた。

「……え?」

 疑念に呟く人狼だったが、その疑問は解消されたのかどうか、少なくともそれを私が知ることはなく、女の子を人質に取った人狼は、心臓を太刀で貫かれて絶命した。

 そして、その背後には、もう一人の私。

 そのもう一人の私は、女の子が地面に落ちる前に、人狼の腕から抱き上げた。

 カルロは驚愕の声。

分身体ドッペルゲンガー!? それは鏡水の剣シュピーゲルか! ではヴィラハドラ様が倒されたということなのか!?」

「ラーズさま、もう始末して良いですよ。知りたいことは分かりましたから」

「そうか」

 ラーズさまは右手の平を腰溜めに構えた。

「うぉおおおおお!!」

 カルロは雄叫びを上げて立ち上がり、剣をラーズさまめがけて振り下ろそうとしたが、それよりも早くラーズさまの掌打がカルロの胸に直撃した。

「ゴッ!」

 呻き声を上げたカルロの動きが止まり、しばらくして地面に崩れ落ちた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます