第40話 ドーン

「見えた ! 近いわ」

 とらえた文字に思わず私は声を上げた。

「洞窟内で水死だけは勘弁願いたいね」

 私の声にノアが冷静にそういった。



 あっという間に私たちの距離は縮んでいく、わずかに視界にライトの魔法ではない光を確認したと思ったのもつかの間。


 魔法で出入り口をふさごうとしていたのだろう、見えていた光は徐々に徐々にふさがれていく。

「ダメっ!?」

 このままではノアの言う通り洞窟内に大量の水と共に閉じ込められかねない。

 思わずそう口に出したけれど、私がつかえる魔法ではふさがれてしまったらどうにもならない。

「この勢いなら大丈夫」

 私が不安なことに気が付いたのかノアはそういった。



 水流はすざまじく、穴をふさごうとする魔法よりも強い威力で土壁にぶち当たり貫いた。



「うわっ」

「離れろ」

 私でもノアでもない声が聞こえてとうとう追いついたことを理解する。



 出口がわかったことはいいものの、そのままの流れで私は流され続けてしまう。

 そんな私をノアがどうやったのか、ひょいっと襟首をつかんで水の流れから離した。

「ルルが!?」

 ルルだけはそのまま水の流れにのって流されていく。



「このあたりは平地。水の勢いもそのうち必ず分散して収まる。それに魅了の術がかかったままでそばにいられるより、こちらに影響がない範囲まで流されてくれた方が助かるよ」

 そういわれて、心配な気持ちはあるものの。

 ノアの言う通り、私たちが出たところは屋敷のある小高い丘の下だとすぐにわかったのと。

 私が水やりに駆り出されるくらい河川はとくにないことを知っていた私はここからはかなり流されるだろうけれど。

 領地内であれば、正気をルルが取り戻せばどうにかなると判断した。



「やぁ、こんな穴掘りが好きだとは思わなかったよ」

 ノアは水が滴った前髪をかきあげるとリスタンにそういった。

 こんな場面にもかかわらず、その動作は実に優雅で余裕があるように見えるが私は知っている。


 


 以前土砂降りの雨をかぶせてしまった時、ノアは一瞬でずぶ濡れの自分を風と火魔法の融合魔法で簡単に乾かせて見せたのだ。


 それがどうだ。

 簡単なライトの魔法は使用していたけれど。

 あれほど息をするようにできていたことをしないということは、そうしたくともできないのだ。




「目論見はすべてばれています。父と母はすでに応援を呼びにスクロールをつかい向かいました。観念なさい」

 ノアは私の前で見せたような強力な魔法を今は使えない。

 そのはったりがばれたら私たちは詰む。

 だからこそ私はノアの態度に乗るように強気に出た。



「そちらに応援?」

 私の言葉をきいてリスタンはそういってクスリっと笑った。


 そしてさらに言葉を続けた。

「それは果たしていつやってくるのか? メランハルトにウルデもとなればずいぶん遠くからお出ましだ」

 ふわりと浮かび上がるリスタンの言葉に絡みつくホントの文字。

 こちらははったりだけれど、リスタンは確証をもってそういっている。


「そちらこそ戦争が起こる可能性をこちらも全く考えていなかったとでも?」

 私はそういって、隣に立つノアの腕にしなだれかかった。



 そんな大胆なはったりをかましながらも私の心臓の鼓動はうるさく響いていた。

 壊されていたのはマクミランだけではない……

 マクミランに隣接するメランハルト領やウルデ領にも転移スクロールで飛べないとなると、メランハルト領もしくはウルデ領に隣接する場所に飛ぶ必要があるはずだ。

 早くてもマクミラン到達まで5日はかかる。



 すでに兵を出して進軍しているとすれると5日もあれば……



「それは怖い怖い。だがそれは、ノア・ヴィスコッティが通常通り機能すればの話だ。使えないんだろう? 魔法が」

 リスタンはそういって笑った。


 ドキリとすることを言われたのに、ノアはしれっとしたものだった。

「普通に先ほどもライトの魔法で照らして暗い穴の中を下ってきたが……」

 先ほどと同じように小さな丸い光の玉をノアは難なく使って見せた。

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公爵令嬢は占いがお好き 四宮あか @xoxo817

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