第39話 コップ1杯
コップ1杯の水を出す魔法で土砂降りの雨となる私が唱えた魔法の威力案の定、とんでもない量の水を生み出した。
現れた大量の水に押し流されて私たちは穴の中を流されていく。
水の勢いで途中で崩れたらどうしようという不安はあるものの、あそこでおとなしくしていても酸素が無くなれば死ぬ。
これにかけるしかない。
幸いノアはライトの魔法だけは今も使ってくれているおかげで真っ暗な中を流れていくのではなくて、わずかばかりに照らされたおかげで水面に顔を出した状態で私たちは流されていくことができた。
「もうそろそろ止めていい」
ノアはそういうけれど、それでピタッと止めることができたら、私だって魔法を伸ばすための学園に進学してたと思う。
「私の意思じゃ止められなくて……」
「は?」
できる人にはわからないことなんだと思う。
意味が解らないという顔をされてしまうけれど、こればかりはしょうがない。
だってどうやって止めたらいいのかわからないんだもの。
「だから、私の意思じゃ止められないの。勝手に終わるのが待つしかできないわ」
「待って、これはそれほど強い水魔法じゃない。今も継続して魔法を使っているのでは?」
「使っているのではないわね!」
私の返答をきいて、ノアが右手で自身の頭を押さえた。
そんなことされてもしょうがない。
今ほかにできることはなかったのだもの。
「開通していればいいが……」
ぼそっとノアがそういって、私はまだ掘っている最中だったら、これどうなるの? ということに私もようやく気が付いた。
「あっ!?」
私が思わず声をあげたところでどうにかなるわけではないけど、どうしようこれ。
その時私の目がこれまでは距離があってよくわからなかったけれど、しっかり内容を把握できるサイズで文字をとらえた。
『大丈夫なのか?』
短いフレーズだった。
――――――――――――――――――――
まるで地震のようなかすかな揺れと何やら水が流れるような音をかすかにかんじたリスタンは部下に念押しをするかのようにもう一度確認をした。
「大丈夫なのか?」
掘ってはいけない場所を掘ったのではないか? と思うが、部下は身に覚えが全くないようで首を横に振った。
とりあえず転移魔法のスクロールが使えないように石を壊すことまでは成功したものの。
今回のことはイレギュラーだった。
これまで通り屋敷の主要人物に魅了の術をかけて誰に咎められることなく遂行されるはずだった。
マクミラン公爵家とはもはや名ばかり。
他国と隣接する防衛のかなめだからと納める税金の額が低くなるようなそれに見合った爵位を渡し。
爵位を維持させ国を守る防衛だったのはもうはるか昔だ。
2代ほど前の王から隣国に接する辺境の領の爵位は名ばかりで。
王都では前線になる領地を治める貴族たちを辺境貴族だと馬鹿にしているのは有名な話。
それにならうように、いざというときに前線となることを踏まえたような婚姻を王の力で結ばせ
他国と隣接する領地にもかかわらず上の考えが変わっただけで、実に見事なほどに何代かかけて衰退していった。
マクミラン、メランハルト、ウルデ。
かつては国の守護神として正常に機能していた領が機能されなくなって久しく。
国への侵入を防負要の領でこれでは、ここさえ落とせば易いと思わせるには十分だった。
ずっとずっと機をうかがっていた。
自身の国の国民が無駄死にすることを王は望まなかった。
だからこそ時間をかけ、時間をかけ用意周到にうごいた計画だった。
なのに!
このタイミングで国境に接するマクミラン領に今生きている魔導士の中で3本の指に入るような化け物が配置されるなどと誰が思っただろうか。
婚約しているなどと言っているがどう考えてもウソなのがバレバレだった。
あれは故意にばればれの白々しい嘘をついて、牽制したのだと思う。
どうしてよりによって今なのか……
マクミラン領にすぐ駆け付けられる範囲であるメランハルトもウルデもすでに転移できぬように石を壊したからだろうな。
王はポンコツでも、スクロールを管理して独占販売している家こそが、しらじらしく婚約者だといって目の前に現れたあの男の実家であるヴィスコッティ家だ。
標的がばれないように他の場所の石もあえていくつか壊したが、やはり国境に隣接するマクミラン、そしてマクミランと隣接するメランハルトとウルデを同時に壊せば、本家の人間が出張ってきたというわけだろう。
だがよりによって、もっとも家門に貢献しないと思っていた。
優秀だが奇人と評判の今回の件にもでばってこないと思っていたノア・ヴィスコッティがよりにもよって前線も前線で涼しい顔で先回りしているだなんて。
丁重に保管されていた転移魔法に使われるだろう石が似たような時期に自然に壊れたとはいいがたいことは明白で。
次は同じ手は通用しない。
だからこそ、今日我々はマクミランに転移できぬように石を壊した後は、兵を入れねばいけないのだ。
「リスタン様、もうすぐ街道につながります」
「とにかくここから早く出ることを優先しろ。気が付かれて上から水魔法で大量に水を送り込まれたらみんなで溺死だ」
「はい」
つれてきた部下たちがこれまでよりも速いスピードで土壁を掘り進めるが、だんだんと大きくなる不気味な音に焦りが募る。
いったいこの計画にどれだけの時間をかけたと思っているんだ。
こんなところで防がれるわけにはいかない。
それに魅了のからくりはもうばれてしまったから、同じ手は使うことは難しくなるだろう。
少なくとも魅了魔法の使い手は誰かということはもうばれてしまった。
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