第37話 暗闇

 どうしよう、私のせいだ。

 いろんなことが渦巻くと遠くで文字が小さく浮かび上がった。

 また無意識で加護を使ってしまっている。

 あわてて加護を使うのをやめようとしてハッとした。



 距離があるからその浮かび上がる文字は読めないが。

 それは地下から浮かび上がる文字だとわかった瞬間、私はすぐに部屋に置いてあるランプを捜した。


「どうかしたかい?」

「まだ地下にいるかもしれません。ただ、この部屋にいつもおいてあったランプが」

「それなら私がなんとかしよう」

 ノアが右手の平を差し出すとそこに光り輝く球体が現れた。

 ライトの魔法だ。



 こうして、私たちは後を追うように地下へと降りて行った。

 ライトの明かりに照らされ2階ほど下へと階段を下りた先に記憶石はあった。


 恐る恐る中の様子をうかがうけれど。

 人のいる気配はない。



 ノアが人がいないと判断し先ほどよりもあたりを明るく照らすと子供の背丈ほどのくすんだ石の塊がそこにあった。

「魔法の効力を失って、ただの石に戻っているようだ。それよりも……」

 すっかり輝きを失った石に触れてノアはそういった。



 ノアの視線の先には壁に穴が開き、大きな横穴ができていた。

「何よこれ……」

「屋敷に戻って誰かに鉢合わせるより地下に道を作って逃げたほうが逃げ切れると思ったんだろうね」


 どうやって作られたかはわからないけれど。

 湿り気のある土に空いた人がそのまま歩いて通れるほどの横穴はかなり不気味だった。

 ノアがライトの魔法で照らすと少し奥の壁に寄りかかるようにして座っている見覚えのあるメイドが一人いた。

「ルル!」

 思わず叫んで穴の中に入ろうとする私の肩をノアが止める。



「入ってはいけない」

「何を言ってるの、すぐそこにルルが倒れているのよ」

「まだ魅了の術で操られて倒れているふりをしているのかもしれない」

「でも」

「この穴は魔法で一時的にほられただけで安全性は確立されていない。万が一この道を隠そうと術師が土壁を崩壊させたら生き埋めだ」



 ルルだけではなく、この穴の先にはルルをこんな風にした人たちがまだいるかもしれない。

 このままでは逃げられるという焦りが浮かぶ。



「おちついて、マクミラン領の記録石が壊されたということは、スクロールをつかって彼らも転移できないってことだし。ティアの両親や私の家からの救援もすぐにはこれないが、それは相手も同じだ」

 そういいながらノアはゆっくりを土壁をより強固に固める魔法を徐々に使う。



 いっぺんにぱっとできないのだろうかと思うけれど、何もできない私が文句をいうのは違う気がする。

「こちらは私が固めてそこのメイドをこちらの部屋につれてくるから、何か縛るものを探してきてほしい。あと親友のミランダにこのようなことになったことを連絡をして」

 ノアの指示で私は走り出した。




 メイドを捕まえると、すぐに事態を説明して。

 リフタン達が危険な人間だったこと。

 ミランダに伝えてほしいこと、ロープはどこにあるの? と矢継ぎ早に私は詰め寄った。

 急いで走ってきたせいで息は上がるし、相変わらず私の意思に反して加護が使われようとして嫌になる。


「わかりました。ミランダ様にお伝えしますね」

 にっこりと笑ってそういわれた文字が浮かび上がり、私の心臓がドクンと強く脈打った。



 わかりました ウソウソウソ

 ミランダ様にお伝えしますね ウソウソウソ



 見知ったメイド、いつも庭の畑の収穫から洗濯まで幅広い業務をする少数精鋭の我が家のメイド。

 そんな人は私が加護をつかって、害のない人間を精査に精査を重ねて選んできたのだ。




 魅了の術は一人にしかつかえないっていつのまに思い込んでいたの。

 こんなのゲームだったら駄作も駄作。

 ゲームにならないわ。



 じりっと私は後ろに下がった。

「そういえばロープは納屋にあったと思います」

 ニイッと笑ったいつもの顔と不釣り合いな浮かび上がる言葉にまとわりつくウソの文字。



「わ、わかったわ。ありがとうメラルダ」

 なるべく平静を装って私は後ろにじりじりと下がる。


 背を向けるのが怖くて怖くて仕方なかった。



 ノアに、ノアにしらせないと。



 他にも魅了をかけられた人がいるかもしれないし。

 目の前の人物の魅了の効果がきれてないとするなら、ルルも倒れたふりをしたフェイクかもしれない。




 ノアが危ない。




 私はある程度距離をとると、納屋に向かうふりをして走り出した。


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