第30話 よりによって
国同士の結びつきのために政略結婚をすることは割と珍しくない。
嫁いだ後苦労しないためにということで、国内で比較的に身分の高い女性が他国の王族や大公といった身分の高い男性のところに嫁いだり。
その逆もしかり。
婚姻することで平和協定がより強くなったり、貿易なんかで利がお互いにあったりと政略結婚自体は珍しくはないのだけれど。
マクミラン公爵家という爵位だけは立派ではあるものの、実情は近隣にバレバレで私のところにそのような話がもってこられたことはたったの一度たりともない。
それがどうだ、ノアと婚約するとなったとたん、隣国からもそれなりの男性が婿にきたいという申し込みがやってくるのだから驚きだ。
「「きな臭い」」
思わずつぶやいた言葉がはもって私は驚く。
「ですから、何度も申し上げているように転移で私の後ろにふらっと現れるのをやめてください」
「面白そうだったから」
「全くいつからそこにいらしてたんですか?」
「それにしても魔法騎士様か……他国に婿にやることを承諾するなんてずいぶんとできた親御さんか、それとも何かしらの思惑があるか。好きだけで突っ走れたなら、私とティアはとっくに夫婦になってる」
「ですよねぇ……」
ヴィスコッティ公爵様のある意味私を懐柔させようとする作戦はそれこそ見境がない。
ノアの弟などまだ幼さが残る中、優秀な兄を家に残すためにお前が婿に行けとでもいわれたのかもしれない。
複雑なお気持ちを胸に抱えたまま、明らかに幼さが残る子かウソだらけの言葉を並べるさまはもう見ていられるものではなかった。
年齢差を理由に断ると、残念ですと口にしていたけれど、明らかにほっとした顔になったのをみて、私も胃がキリキリとしたのは久しい。
「この方もヴィスコッティ公爵様の差し金でしょうか?」
「それはわからない。スクロールは他国にも販売しているから、それがらみという線は捨てられないし。ウェルスター王国には戦争の予兆があるのは事実。前に向きに考えれば、結婚することで開戦を避けたい。後ろ向きに考えれば……」
ノアはそういって私の方を見据えた。
「中から扉を開ける人が欲しいってわけね」
「ご名答。まぁ、後は開戦はまだ当分考えてないが、後々は考えているのでマクミラン領に私に婿に入ってほしくないとかかな」
ものすごく惜しいけれど、裏の理由がちらつきすぎて私は母と相談しつつすぐに丁寧な断りの手紙を送った。
ヴィスコッティ公爵様が明らかに反対を表明していて、私にあれやこれや釣書をどんどん送ってくるけれど。
ノアと結婚するかはおいといて、のちのち結婚するようなことがあれば、お客様が来た時だけ取り繕うというわけにもいかなくて。
少人数ながら人を雇うことにした。
結婚の話はまだ具体的に進展はしていないけれど、新しい人を迎え屋敷は慌ただしくなっていた。
そんな時。
屋敷にまた話をややこしくする男が現れたのである。
先日断ったはずのウェルスター王国で魔法騎士の称号をもつ、ミュラー侯爵家の三男坊、リスタンが数人の従者を引き連れてマクミランを訪問してきたのだ。
「お嬢様!! 大変でございます」
まだまどろんでいたい時間だというのに、セバスがけたたましく私の部屋の扉をノックした。
こういうことがある日はろくなことがないと決まっている。
「一体なにごとですか」
起き上がり、寝間着に羽織を羽織って私は扉を開けた。
「訪問者でございます」
「ヴィスコッティ公爵様なら、私よりも先にノアを起こしてきて対応をしてもらって」
「ヴィスコッティ公爵様ではございません。ウェルスター王国のリスタン様と……」
「なんで!?」
「先日確かにお断りされていましたよね?」
断ったとは聞いていたけれど、ならなんで訪問してくるの? ってことでセバスが私にそう確認してきた。
「もちろんよ。惜しくなって断ってないとかはないわよ。いくら釣書の写真が鮮やかな金髪とさわやかな笑顔をしてた国宝級の顔をしていたとしても。さすがに胡散臭すぎるもの。会うことすらないようにすぐに断りの手紙をかいたわ」
「なら、なぜお会いに来られるんですか! ノア様も屋敷にいらっしゃるというのに……二兎を追うものは一兎も得ずですよ」
「明らかなババをひくほど私はおろかではないわ。とにかく、早急に帰っていただきましょう」
「はい」
私がそういうと、セバスはうなずいた。
「お嬢様」
「何?」
「くれぐれも無理をなさいませんよう」
「わかっているわ。うまくやる、これまでのようにね」
「ノア様には何か言わなくてよろしいので?」
「ノアが私に興味を持ったのはある意味奇跡みたいなものよ。下手なことをして今興味を失わせたくない」
「もう少し信用してもいいのでは? 結婚されるのでしょうし。あれだけ愛をささやいていらっしゃるのに」
「人の心は移り変わりやすいことを私が誰よりもしってるの。さて、セバス行くわよ」
私がそういうとセバスは猫になり私の横についてニャーッと鳴いた。
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