第十四話 そして夜は明ける
積もりきった雪は溶けた。
広がっていた暗雲は払われて、雪晴れの
澄み渡る
空を裂き割る流れ星。
しかし甚助からは、一切の意を感じない。あの鞘の中に、全ての想念は込めれていた。
意を感じないからこそ、紛う事なき終結の一振りを撃つつもりなのだということが手に取るように察せられた。
対して
甚助がいるのは
刃挽き刀をゆったりと正眼に構え、音もなくひっそりと息を吸う。
余った分を静かに吐き出して、
心にあるのはただ一つ、「成」という一字のみ。
ただ一つ、
たった一つを
たった一人を
「…………――」
甚助が
踏みしめた白布に
二丈近い距離を、一息で駆け抜けるために。
その場にいる人々もまた、戦いの終わりを感じ取る。
乾いた冬の気に目玉の水気を取られても、構うものかと目を
まだ幼く何も分からぬ
口の中に溢れた唾を、喜七郎はゴクリと飲み込む。
――瞬間。
「ッ――!!」
足に溜めた力に、熱を乗せた気を打ち込む。石火を受けた火薬が
全力を込め、全身を賭して、全霊を注ぎ、たった一つ、心王の想いが振るわれる。
「
中段に構えられていた刀は、
甚助が
熱風を受けた甚助は、柄を握る手に思いを込めている。
「
「
一刀斎が刀を振り下ろし、甚助が刀を抜き放つ。
時を
熱風放つ炎の斬撃と、
――故に、その決着は。
「
「…………
一刀斎の剣は甚助の頭の、甚助の剣は一刀斎の胸の、それぞれ三寸先で止まっている。
身に触れかけたその刃は、
それもそのはず二人は共に、最後の一撃を放つ瞬間、更に一歩踏み込んでいた。
お陰で二つの一撃は、どちらとも
――――つまりは。
「…………
舞台の上から声が上がる。低く、凛と穏やかながらよく通る声。それは
「――
「…………相討ちか」
「
半ば独り言のその
見たままでは、
だがしかしその奥歯は
「…………
「悔しいな」
やたら渇いた
「決着を付けられなかったことではない。己の
「…………未熟?」
言葉そのまま聞き直した甚助に、「ああ」と頷いた一刀斎は、そのまま言葉を
「
己の
己を正しく、
なぜならば。
「心の
口からこぼれ出た言葉は、まるで揺れた
恐らく一刀斎は、熱を入れたつもりなどはないのだろう。ただ
だがだからこそ、一刀斎の裡に燃える
いつの間にか、舌は柔らかく巻かれている。奥歯だけに込められた力は、
頭が妙に、すっきり
「…………最後、吾が振るった抜刀は軽かったか」
「食らってはいないから
「…………そうか」
ふと空を見上げれば、青々とした冬空が広がっている。冴えた目に、鮮やかな青が
心の夜にも、日が差したようにさえ思える。
「…………不思議なものだ。あの最後の
夜明けの心がそうだと告げている。
「……――間違いなく、
「ふわぁあ……」
感嘆の声しか、漏れ出なかった。
両者の
喜七郎に分かった事はただ一つ。
「おぉぉ……!!」
感嘆の言葉しか、上げられなかった。
更に言えばあの
あの黒衣の
対するあの静かな男は、
あの
あれは欲しい。思わず喉の奥が鳴った。
だがしかし――――。
「外他、一刀斎……」
はてさてその名、どこかで聞いたような…………。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます